実技競技3「Mgホバーレース」

過去2回の大会で非常に盛り上がった「クリップモーターカーF1」に代わり、第3回大会では新競技が導入された。クリップモーターカーF1はタイムレースで結果が分かりやすいし、競技としても面白かったのだが、すでに2回実施したことで、ある程度"定石"のようなものが見えてきていた。独創性を発揮してもらうためにも、科学の甲子園ではあえて"名物競技"を作らない方向性のようだ。

配布された材料。乾電池はホバークラフトのテスト用で、本番では使えない

用意された工具類。自分たちで工具を持ち込むことは出来ない

今回の競技は、燃料電池の一種であるマグネシウム空気電池(Mg空気電池)を電源とするホバークラフトを作るというもの。電池も機体も作るので、バランスの良い設計が重要だ。競技内容は事前に公開されており、大会前の練習が可能だとはいえ、用意された材料と工具のみを使い、たった1時間で作らなければならないので、作りやすさまで考慮する必要がある。チームの総合力が試される競技である。

ホバークラフトの材料は、DCモーター×2個、ポリエチレン袋、スチレンボード、工作用紙、プラスチック板、クリアカップ。一方、Mg空気電池の材料は、Mg板×3枚、銅金網、活性炭、輪ゴム、紙フィルター、ビニール被覆線、ビニール袋、食塩水だ。作成したMg空気電池はビニール袋に入れ、ホバークラフトにはそれを2個まで搭載できる。

Mg空気電池の構造。これに食塩水を加えれば反応がスタートする

製作中の様子。機体と電池で2人ずつに分かれていたチームが多かった

コースの全長は9m。最初の1.3mが下り坂になっており、勢いを付けられるとはいえ、手製の電池と機体による9mの完走は至難の業。予選の1回目では、完走できたのはなんとわずか4チーム! このことからも、この競技の難しさが分かるだろう。スタートラインからまったく進めないチームも非常に多かった。

予選最初のレース。まったく動かない様子に会場からは笑いも

別の予選レース。レーン内で回転して逆走するチームも

モーターが2個用意されていたこともあり、1個を浮上用、もう1個を推進用に使っているチームが多かったが、1個のモーターで両用できるよう工夫しているチームもあった。モーターが2個だと、浮上用と推進用でそれぞれ最適なファン形状が使えるのがメリットだし、モーターが1個だと、機体を軽く、シンプルにできる(=短時間で作れる)のがメリットだと言えるだろう。

では、両タイプのどちらが有利なのか、であるが、それは全体の設計次第だろう。2個タイプには2個タイプに適した設計があるし、1個タイプには1個タイプに適した設計がある。おそらく、最も「最適な設計」に近かったのが、2個タイプの場合は三重県立伊勢高等学校(三重)、1個タイプの場合は常総学院高等学校(茨城)だったのだろう。それぞれ、予選のベストタイムは6.1秒(予選1位)と6.2秒(同2位)でほぼ互角。

完成したホバークラフト。同じ材料から作っても設計はバラバラ

常総学院高等学校は、カップを斜めに切ってエアフローを分けていた

予選は2回行われ、その上位8チームが決勝レースに進出。その結果は…1位は常総学院高等学校(6.7秒)、2位は三重県立伊勢高等学校(7.7秒)だった。常総学院高等学校は3回のレースすべてで完走しており、速さだけではなく安定性も光った。一方、予選1位だった三重県立伊勢高等学校は1.6秒もタイムを落としてしまい、涙をのんだ。決勝レースではMg空気電池の製作時間が10分しかなく、電池セルが1個足りない状態だったのが響いた。

決勝レース。やはり科学の甲子園のトリはタイムレースが盛り上がる!