京都大学は10月23日、花粉を運搬する昆虫(ホソガ科ハナホソガ属蛾類)との特異な共生関係が、花の匂いが雄花と雌花の雌雄で異なる「性的二型」を引き起こすことを発見したと発表した。

成果は、京大 森林総合研究所の岡本朋子研究員/日本学術振興会特別研究員(人間・環境学研究科)、同・大学 人間・環境学研究科の加藤真教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間10月23日付けで英学術専門誌「Proceedings of the Royal Society B, Biological Sciences」オンライン版に掲載された。

クジャクの羽やカブトムシのツノなど、多くの動物では雌と雄で異なる形質を持つこと、つまり性的二型が知られている。ところが、このような性的二型の現象は主に動物のみで知られ、被子植物の花の形や色、においなどが雌雄で異なることは稀と考えられてきた。

多くの被子植物は、昆虫などの動物によって花粉が運ばれる。送粉動物は花蜜や花粉などを求めて花を訪れ、その際、偶然体に付着した花粉が雌しべに運ばれることで、受粉が成立する仕組みなのは説明するまでもないだろう。雄花と雌花を別々に咲かせる植物では、同種の花粉を持った動物が雌花を訪れることが受粉成立に重要であるため、雌雄間で見た目やにおいを似せて、同じ動物を花へ呼び寄せなければならないのである。

ところが、ハナホソガ属の蛾類では、コミカンソウ科植物の雄花と雌花を明確に区別し、それぞれの花で能動的に花粉を集め、運び、付けることが知られている(画像1・2)。

口吻を使って巧みに花粉を集めるハナホソガ(画像1:左)と、その後雄花で集めた花粉を雌花の柱頭に付けるハナホソガ(画像2:右)。このように積極的に花粉を運ぶことを「能動的送粉(Active pollination)」と言い、「イチジクコバチ」や「ユッカガ」など一部の昆虫が行うことが知られている

ちなみにハナホソガが能動的に花粉を運ぶのは、もちろん植物のためなどでではない。幼虫が種子食であるハナホソガは、子どもたちの餌である種子の結実を確実にするために、能動的に授粉しているわけだ。1種のコミカンソウ科植物は1種のハナホソガだけに送粉(花粉の運搬)を依存しているため、両者は繁殖を委ね合う関係といえる(絶対送粉共生と呼ばれる)。

夜行性のハナホソガは自らの繁殖のために、夜の暗闇の中、数多くの木々の中から我が子の揺りかごとなる植物を選び出し、雄花と雌花を見分けている。つまり、互いが繁殖を行うためにはハナホソガが雄花と雌花を見分けて行動することが必須といえる。

このような関係でキーとなるのが、多くの夜行性の生物が情報として用いている「匂い」だ。一般的な被子植物とは異なり、ハナホソガによって花粉が運ばれる植物では、雄花と雌花の匂いが似る必要はない。むしろ、異なる方がハナホソガが花を見分けやすくなると考えた。今回の研究は、「ハナホソガによって花粉が運ばれる植物では花の匂いが雌雄で異なる」ことを検証したものだ。

そこで研究チームは今回、ハナホソガによって花粉が運ばれる植物では、雌雄で花の匂いの違いが見られるかどうか、「ガスクロマトグラフ質量分析計」を用いた分析をしたところ、カンコノキの雌雄で花の匂いが顕著に異なるという結果が得られた(画像2)。一方、同じコミカンソウ科植物の中でも、ハナホソガ以外の昆虫(ハナバチなど)によって花粉が運ばれる植物では、雄花と雌花の匂いが非常に似ることも明らかになった(画像3)。

さらに、このような花の匂いの性的二型が、ハナホソガとの関係を通じて作り出されたかどうかを調べるために、植物のDNAを解析し、分子系統樹を作成した(画像4)。その結果、花の匂いの性的二型は、これまでに独立に3回起源しており、それらはハナホソガによる花粉媒介の起源と一致していた。

画像3(左):花の匂いの類似性を示した散布図。数字は植物の種、数字の色は性(赤:雌花、青:雄花)を示す。また、緑色で囲った種はハナホソガによって花粉が運ばれるもの、黄色はハチやハナアブなどに偶然花粉が運ばれるものを示している。 画像4(右):植物の分子系統樹

数字と色は画像3と対応。図中(6)~(10)は花の匂いに性的二型が見られ、それに近縁な(5)では見られない。これらの違いはハナホソガによって花粉が運ばれるかそうでないかによるという。

また、花粉を集めた経験のないハナホソガに雄花と雌花の匂いを提示してどちらに誘引されるかも調べられた。すると、雄花の匂いを好むことが明らかになったのである。つまり、ハナホソガは雄花と雌花の匂いを嗅ぎ分けることができることを示している。これらの結果はすべて、ハナホソガの能動的送粉行動が、花の匂いの性的二型を引き起こすことを示しているとした。

これまでに花の匂いの役割として、送粉者の花への誘引は数多く解明されてきている。ただし、花の匂いの多様化や進化に送粉者との相互作用が明確に関わってきたことを示した研究は非常に稀だった。また、昆虫が「におい」という目に見えない情報を巧みに使い、複雑な繁殖行動を達成していることを、今回の研究は示した形だ。これは、体長数mmの小さな昆虫に秘められた複雑な情報処理システムを垣間見る結果であるといえるとする。