Analog Devices(ADI)は9月5日、最大サンプリング速度5MSPSを実現した逐次比較型(SAR型)の18ビットPulSAR A/Dコンバータ(ADC)「AD7960」および、16ビットADC「AD7971」を発表した。

AD7960は既存の市販ADC比で、最大サンプリング速度を2倍以上に向上しつつ、5MSPSであっても39mWの消費電力を実現した1chのADC、低消費電力ながら高いサンプリングレートと高い分解能の両立という、従来のADCの課題であったサンプリング速度を向上と消費電力や分解能のトレードオフの問題を解決することに成功している。また、SNRも99dB typを実現を実現しているほか、レイテンシ/パイプライン遅延時間がなく、即座に変換を行うことが可能なため、リアルタイム性が重視されるアプリケーションでも高い性能を実現することが可能となっている。

一方のADI7961は、AD7960とピンコンパチ(5mm×5mmの32ピンLFCSP)の1ch 16ビットADCで、基本的な仕様はAD7960と同じ。SNRは95.5dBとなっている。

AD7690/7691の製品ポジション

AD7690の概要

AD7691の概要

いずれの製品も、電荷再分配型CAP DACを採用した逐次比較型で、リニアリティは、積分非直線性誤差(INL)がAD7960で±0.8LSB(typ)、AD7961で±0.55LSB(max)、微分非直線性誤差(DNL)はAD7960で±0.5LSB(typ)、AD7961で±0.25LSB(max)となっている。

電荷再分配型CAP DACのブロック図。通常、サンプリングレートと消費電力はトレードオフの関係にあるが、同製品ではあくまで推測だが、CAP DACのスイッチ動作の最適化やコンパレータの改良などを図ったり、スタティック時の電力の徹底的な削減などを図ることで性能を維持しつつ低消費電力化を実現したものとみられる

また、チップサイズも、市販の同程度の性能品と比較しても約50%縮小となる25mm2となっているほか、変換開始の端子であるCNV±はLVDSとCMOSを選択可能(出力はLVDS。最大300MHzでデータ出力が可能)で、CNV-をグランドに落とすことでCMOSモード(Echoed mode)に選択でき、その場合、消費電力を5MSPS時であっても39mWに抑えることができるようになるという(LVDSモード時は5MSPSで46.5mWであり、これでも競合製品比で70%の省電力が可能となっている)。さらに、消費電力は変換レートで可変となっており、出力データレートを下げることで、必要な消費電力も低減させることが可能が。

LVDSモード時でも十分低消費電力だが、CMOSモードに切り替えるとさらに消費電力を抑えることができるようになる

変換レートが低くなればなるほど消費電力も低下する。2MHz以下になると、VIOが支配的になる。この図だと、パッと見39mW@5MSPSになるように見えないが、5MHz時の消費電力は図から見積もると、ざっくりVDD2が約11mA(1.8V×11mA=19.8mW)、VDD1が約2mA(5V×2mA=10mW)、そしてVIOが約5mA(1.8V×5mA=9mW)なので、19.8+10+9=38.8mWとほぼほぼ39mWという値となる

適用アプリケーションとしては、デジタルX線やCT、MRI、IR/CCDカメラといったデジタル画像信号処理機器や、産業計測機器などが想定されているが、性能の向上とともに低消費電力化を実現しているため、ポータブル医療機器などの性能向上とバッテリー寿命の延長なども可能となるとしている。また、高速かつ低消費電力という特徴を生かし、オーバーサンプリングを行うことで、例えば従来型ADCと同じ周波数における処理を比較した場合、ノイズ量を必要帯域の中で減らすことができるようになり、システム内部におけるSNRを向上させることが可能になるという。

オーバーサンプリングにより、SNRを改善することができるが、従来であれば消費電力も増してしまっていた。AD7960/7961では、元の消費電力が低いため、手軽にオーバーサンプリングを行うことが可能となる

なお、2製品ともに量産出荷をすでに開始しており、1000個受注時の単価はAD7960が31.00ドル、AD7961が21.00ドル(いずれも米国における販売価格)。同社では、これらの製品向けに複数の評価ボードならびに実用回路集なども提供しており、そうしたものを活用することで設計・開発期間の短縮を図ることが可能だと説明している。