京都大学(京大)は、重篤なペルオキシソーム病である肢根型点状軟骨異形成症(RCDP-1)の分子機構を解明したことを発表した。

同成果は同大の加藤博章 薬学研究科教授(理化学研究所客員研究員 兼務)、中津亨 同准教授、潘東青 同研究員(当時、同研究科大学院生)らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載された。

ヒトなどの真核生物の細胞は細胞小器官と呼ばれる袋構造に遺伝情報を記録するDNAを格納する核や細胞内のエネルギーを生産するミトコンドリアなどを持ち、それによりさまざまな機能を分業できる仕組みとなっている。その中の1つに、長鎖脂肪酸を分解し、エネルギー生産に適した物質に変えるなどの働きを持つ「ペルオキシソーム」がある。

ペルオキシソームは、脂質膜上に内部に化学反応を触媒する酵素を正しく取り込むためのカギ穴(錠前)付きの20数種類のタンパク質で構成されるゲートを有しているが、錠前を形成するタンパク質はヒトでは2種類(パン酵母では4種類)存在し、「PTS1」と「PTS2」の2種類の輸送配列(カギ)を認識する。もし、これらの輸送配列を認識するタンパク質に異常が生じた場合、カギとカギ穴が合わなくなるため、酵素がペルオキシソームに入れなくなり「ペルオキシソーム病」が引き起こされることとなる。

ペルオキシソーム病は、主に「ペルオキシソーム形成異常症」と「単独酸素欠乏症」の2つの病態に分けられる。ペルオキシソーム形成異常症の1つにZellweger症候群があるが、これはPTS1を認識するタンパク質であるPex5に機能異常が生じることで引き起こされる。また、PTS2を認識するタンパク質であるPex7に機能異常が生じると、単独酸素欠乏症の1種である肢根型点状軟骨異形成症(RCDP)1型を発症することが知られている。

これまでの研究から、Pex5によるPTS1の認識機構はすでに解明されていたが、PTS2の認識機構については、機能的なPex7を大量に生産することが難しく、X線結晶構造解析を適応することができていなかった。

そこで今回、研究グループは機能的なPex7の大量生産系を確立することで、PTS2とそれを認識するタンパク質の複合体の結晶構造を決定することに成功し、RCDP-1型の原因タンパク質であるPex7がどのようにPTS2を認識するのかを明らかにしたという。

具体的には、Pex7によるPTS2の認識機構解明のために、モデル動物として研究が進んでいるパン酵母「Saccharomyces cerevisiae」を用いて研究を行った。

パン酵母のペルオキシソーム酵素の1つであるチオラーゼは機能的なPTS2配列を持っており、その配列はPex7ともう1つのタンパク質(Pex21もしくはPex18)によって認識されることが知られているが、今回、研究グループは、真核生物のタンパク質生産系であるメタノール資化性酵母「Pichia pastoris」を用いて、パン酵母のPex7の大量生産系を開発。Pex21のPTS2認識に重要な領域を大腸菌で生産する系を構築し、PTS2、Pex7、Pex21の3者を混合して複合体を形成し、結晶を作製し、大型放射光施設(SPring-8)を用いてX線結晶構造解析を行うことで、結晶構造の決定に成功。その結果、PTS2の9アミノ酸の配列がPex7とPex21によって形成されたポケットに相補的に結合し、認識されるというメカニズムを明らかにした。

結晶構造から判明したPTS2の結合様式。(a)はPex7とPex21とPTS2-MBPの結晶構造。PTS2とMBPはつながった1つのタンパク質分子で、3つの分子の表面を表している。(b)は結晶構造から推定されるPTS2の結合様式

この結果、PTS2とPex7-Pex21複合体との結合が凹凸のカギとカギ穴の関係であること、ならびにPTS2のアルギニンとヒスチジンは塩基性のアミノ酸でPex7上の溝にある酸性アミノ酸と静電的な相互作用をすることが判明し、PTS2は凹凸の形だけで認識されるのではなく、マグネットキーのように電気的な引き合う力や反発する力もその認識に関与していることが示された。

PTS2結合部位の拡大図。(a)はPTS2の9アミノ酸の配列(各アルファベットはアミノ酸を表す。Rはアルギニン、Lはロイシン、Qはグルタミン、Sはセリン、Iはイソロイシン、Kはリジン、Hはヒスチジン)。PTS2のへリックスの中で、重要な5つのアミノ酸の側鎖を棒モデルで表示している。(b)はPTS2の結合部位の拡大図。Pex7は緑、Pex21はピンクで色付けしてあり、PTS2のアルギニンとヒスチジンと静電的な相互作用する酸性アミノ酸の酸素原子を赤く色付けしてある

これまでの研究から、Px7の1つのアミノ酸が突然変異を起こし、RCDP-1型を発症した患者の例が報告されているが、今回の研究から、この変異したアミノ酸がちょうどPTS2の側鎖を認識する溝のアミノ酸であることが判明したと研究グループでは説明するほか、PTS2の認識に関わらないPex7のアミノ酸が突然変異しても、RCDP-1型になる可能性が低いと考えられることから、今回決定された結晶構造を基にすることで、より正しい診断ができるようになることが期待されるとしている。

また、突然変異によりPex7とPTS2の親和性が低下したことが原因となるRCDP-1型の患者に対し、PTS2との親和性を高めることができるような低分子、いわゆるケミカルシャペロンを開発するための原子レベルの分子構造基盤の提供にもつながることが期待されるともコメントしている。