パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は5月24日、1万lm級の高光束を出力する半導体白色光源を開発したと発表した。

同技術は、ディスプレイ関連で世界最大の国際会議「Society for Information Display(SID)」の「2013 SID International Symposium」において、特に優れた研究成果に贈られるDistinguished Paper Awardを受賞した。詳細は5月21日~24日(現地時間)開催の同学会で発表される。

近紫外半導体レーザと蛍光体を用いた高輝度白色光源

従来のレーザ白色光源では、青色光などの可視光半導体レーザを多数使用する必要があり、小型化と高輝度化の両立が困難だった。また、一部のレーザ光は蛍光体を通さずにそのまま投射されていた。加えて、従来の蛍光体はレーザを集光すると輝度飽和が顕著となるため、大光量の光源に利用するのに適していなかった。

今回の開発では、発光源に用いる近紫外半導体レーザの高効率・低損失設計、およびモジュール化によって光出力の向上を図った。また、強いレーザ光を照射しても輝度飽和しない蛍光体材料を開発し、白色光としての高光束を実現した。LEDに比べて発光部が小さく出射光の直進性に優れたレーザの採用で、コンパクトな光学構成が可能となり、セットの高輝度化と小型化の両立に寄与する。同技術によって、投射照明市場における光源の半導体化をさらに加速できるとコメントしている。

特徴は3つ。1つ目は、発光源の近紫外レーザを従来比110倍に高出力化することで業界最高の光出力60Wを達成し、レーザモジュールを小型化および機器デザインの自由度を拡大させたこと。データプロジェクタをはじめとする投射ディスプレイ用途で半導体光源を利用する場合、一般に連続動作で数十Wの安定した光出力が必要となる。この光出力は、通常複数の素子を並べて必要な光量を得る。今回の開発では半導体レーザ1素子当たりの光出力を従来比110倍に高めて素子数を従来比1/10に抑制し、モジュールに一体化することで、連続動作で最大光出力60Wに達する性能を実現した。光源の小型化によりディスプレイ機器の薄型・軽量化や可搬性の向上が図られるとともに、車両用前照灯などの車載エクステリア照明に使用することで、自動車の車体設計の自由度が増し、斬新なデザインの実用化に寄与するという。

2つ目は、新規開発の蛍光体を採用することで青色発光出力を40%向上させ、RGBの蛍光体による1万lm級の高光束白色光源を実現したこと。半導体レーザの光出力を高くすると、レーザ光を使用して波長変換する蛍光体も強いレーザ光に適したものが必要となる。特に青色蛍光体は、高光密度での輝度飽和が顕著なため、強いレーザ光を使用する場合に十分な明るさを出力できなかった。今回の開発では蛍光体材料を見直し、高い光密度での蛍光出力特性の改善した青色蛍光体を開発した。これにより、近紫外半導体レーザを60W照射した場合に、既存品では25Wの青色光しか得られないのに対し、新規蛍光体では35Wまで直線的に光出力が上げられることを実証した。この青色蛍光体と、赤色・緑色蛍光体を組み合わせると、数千~1万lmの高光束を発する光源の実現が可能であり、投射型ディスプレイとして少なくとも3000lm以上の明るさが実現する。

従来の青色蛍光体では、高光密度での輝度飽和が顕著であり、強いレーザ光を使用する場合に十分な明るさを出力できなかった(左)。これに対し、今回開発された青色蛍光体は、35Wまで直線的に光出力が上げられる(右)

3つ目に、1種類のレーザ光からRGBの蛍光光を生成することにより光学系を簡素化でき、レーザ光が直接スクリーンへ投射されるのを抑制したこと。近年、高圧水銀ランプに代えてLEDや半導体レーザを光源に採用し、水銀を使用しないことによる環境負荷低減や超寿命化、瞬時の点灯・消灯、省電力化を図る動きが活発になっている。しかし、既存のLEDや半導体レーザでは光学系が複雑になり、レンズなどの部品点数が多く課題だった。今回の開発では、1種類の半導体レーザと蛍光体による波長変換機能に分離することにより、光学系の簡素化と部品点数の削減を実現した。また、レーザ光は蛍光体に吸収されるため、蛍光体で生成された可視光がスクリーンへ投影されることになる。

また、同開発品は3つの技術によって実現した。1つ目は、近紫外レーザの光導波路ワイド化と光損失抑制を最適化した高出力・低損失レーザ設計技術。波長400~410nmの近紫外レーザは、Blu-Ray Discの再生・記録用光源に使用されている。今回の開発では、このBlu-Ray Disc用半導体レーザ技術をベースに、投射型ディスプレイ用光源に適用できるよう光出力を10倍高めることに成功した。レーザ光が共振・増幅する光導波路の幅を広げ、高出力の光を安定的に得られるデバイス設計を行った。一方、レーザ光を効率良く素子から出射させるために、素子内部での光の吸収や散乱を抑える光導波路の低損失化も両立させた。

2つ目は、発光原子の濃度制御に適した結晶構造を持つSMS蛍光体をベースに、輝度飽和を抑制した蛍光体材料技術。従来、青色蛍光体として広く利用されてきたBAM蛍光体では、光密度の低い用途では高い波長変換効率を発揮するものの、光密度が高くなるにつれて光の変換効率が急激に下がるという問題があった。これは、BAM蛍光体の結晶構造がスピネル型で、発光原子であるユーロピウムが高濃度になると互いに近接し発光を打ち消しあう構造であることが原因だった。今回の開発では、独自の蛍光体合成技術を駆使し、ユーロピウムの格子距離が近接しにくいメルウィナイト型結晶構造を持つSMS蛍光体を採用することで、その合成条件を最適化することにより、高光密度でも高い波長変換効率の青色蛍光体を実現した。

3つ目は、蛍光体回転ホイールで近紫外レーザ光を吸収し、赤・緑・青の蛍光光に変換する波長変換技術。今回の開発では、RGB3色を一種類で励起可能な発光源として近紫外レーザを採用した。RGBの各蛍光体を放射状に塗り分けた蛍光体回転ホイールを用いることにより、シンプルな構成でカラー表示する投射型光源を実現した。