国内における商用ISP(Internet Services Provider)の草分けであり、目まぐるしく変わるインターネットの歴史の中でも、常にリーディング・カンパニーとしての役割を果たしてきたインターネットイニシアティブ(IIJ)。

同社は2011年4月、島根県松江市に商用として国内初となる外気冷却コンテナユニットによるデータセンター「松江データセンターパーク」を開設。その先進性と機能性が評価され、松江データセンターパークは「2012年グッドデザイン賞 グッドデザインベスト100」をはじめ、「グリーンITアワード2012 商務情報政策局長賞」、「グリーン・グリッドデータセンター・アワード2012 特別賞」など、数々のアワードを受賞している。このデータセンターの要ともいえるのが、インテリジェントPDUを活用した遠隔での運用管理の仕組みだ。今回は、その概要をレポートする。

松江データセンターパークの2012年受賞履歴

コンテナ内のリモート管理を実現するインテリジェントPDU

松江データセンターパークは、IIJが提供するIaaSからSaaSまでを包括するクラウドサービス「IIJ GIO サービス」のファシリティとして利用されている。ここで使われているのが、同社が独自に企画、開発したコンテナユニットである「IZmo(イズモ)」だ。約8,000平方メートルの敷地面積を持つ松江データセンターパークには、IZmoを最大で24台設置することが可能。現在は15台のIZmoが稼働しているが、年度内に20台まで増やす予定だという。

松江データセンターパーク

コンテナユニットである「IZmo(イズモ)」

1台のIZmoには、1Uサーバであれば約360台、ストレージであれば約6PB(ペタバイト)を搭載可能だ。IT機器メーカーの工場でサーバなどの機器を搭載した後、そのままトラックで運搬して設置することができるため、IT機器設備の構築期間の大幅な短縮に寄与した。また、外気冷却コンテナユニットの採用により、全体の消費電力を従来のビル型データセンターよりも約40%も削減している。IZmo単体でのpPUE値の実績は、年間平均で1.16という極めて低い数値となっている。

「IZmo」内部

IZmoは、2011年3月25日に国土交通省から発出された技術的助言「コンテナ型データセンタに係る建築基準法の取り扱いについて」で定められる、建築基準法の建築物に該当しないコンテナ型データセンターに該当する。そのため、IZmoを増設する際には、建築基準法に基づく届け出や審査といった煩雑な手続きが不要となり、迅速な展開が可能となっているのだ。

ただし、法的に建築物に該当しないため、機器の障害など重大な事故発生時を除き、基本的に人が内部に入ることは禁じられている。そのため、高度な遠隔管理・監視システムが必要となったのだ。

IZmo内に人が立ち入らなくても運用ができるように、IIJでは独自に「IZmo管理システム」を開発。サーバの遠隔操作と合わせて、ラリタン製のインテリジェントPDU「PX2」シリーズによりモジュール内の温度や設置機器の消費電力の監視、電源供給の制御が行えるようになっている。IIJでは現在、機器のLEDランプの監視やIZmo内部の画像監視は別の仕組みにて実現しているが、これらも「PX2」が備えている機能をさらに活用して実現できる可能性があり、IIJでは検討、検証を進めているという。

「IZmo管理システム」

IIJ サービスオペレーション本部 データセンターサービス部 部長 久保力氏

IIJ サービスオペレーション本部 データセンターサービス部 部長 久保力氏は「PX2」導入の背景を、「IZmoは法的に建築物ではないというのが大きな特徴となっており、インテリジェントなファシリティでリモートから管理する必要があります。温度や電流の測定をリモートで行えるインテリジェントPDUは、IZmoには必要不可欠だといえます。現在、サーバ、ストレージ、ネットワーク機器など、IZmo内のすべてのIT機器の電源管理をPX2で実現しています」と説明する。

ラリタン製のインテリジェントPDU「PX2」シリーズは、IZmo開発時に行ったサーバの集約率をどこまで高くできるのかについての検証でも活躍した。「PX2」でサーバ単位での電力測定を重ねた結果、最適な収容台数を確認できたのだ。また現在は、PX2で測定したIZmo内のIT機器の電流がしきい値を超えた場合にアラートを発するなど、運用の自動化や効率化にも大きく貢献している。

高い信頼性とメーカーの柔軟な対応がポイントに

IIJ サービスオペレーション本部 データセンターサービス部 事業企画課 主任 橋本明大氏

IIJはIZmoで採用するPDUの選定に当たり、まず仕様確認書による評価で製品を絞り込んだ後、実機による検証を行った。過酷な負荷試験や自社システム(IZmo管理システム)との結合試験などを評価した結果、最終的にラリタン製のインテリジェントPDUの導入が決定した。

IIJ サービスオペレーション本部 データセンターサービス部 事業企画課 主任 橋本明大氏は、評価ポイントを次のように説明する。

「PDUは電気設備の一部なので、メーカー対応なども含めて評価を行いました。ラリタン製PDUの優位点はいろいろとありましたが、+-2%以内という計測精度の高さが魅力でした」

一方、同社サービスオペレーション本部 データセンターサービス部 事業企画課 課長 川島英明氏は、ラリタン側の対応を高く評価する。

IIJ サービスオペレーション本部 データセンターサービス部 事業企画課 課長 川島英明氏

「非常に高密度なIZmoで使用するためのカスタマイズにも柔軟に応じてもらえました。IZmoはコンテナユニットであるため、既存製品の入力ケーブルだと長すぎて邪魔になります。そこで、ケーブルを短くできないかラリタン様に相談したところ、当社専用仕様の製品を開発してくれました。おかげで、限られたスペースを有効活用することができ、2年前にはアウトレットが20の製品だけだったのが、『サーバの密度を高めるために24のアウトレットが欲しい』と要求したところ、こちらもすぐに対応してもらえました。他にも、動作保証温度についても、こちらの要望に応じてくれるなど、迅速かつ柔軟な対応には感謝しています」

今後IIJでは、IZmoを運用する中でインテリジェントPDUなどから得た様々なデータを分析し、さらなる効率的でグリーンな運用を実現していく構えだ。またそれとともに、全国に展開している同社のビル型データセンターにもインテリジェントPDUを導入していく計画だという。

「インテリジェントなファシリティは、IZmoのようなコンテナ型データセンターだけでなく、通常のビル型データセンターでも有用性が高いことが証明されました。今後は、全国のデータセンターでネットワークとクラウドを活用した管理フレームワーク化を進め、グローバル化も見据えた展開を図って行きたいと思います」と久保氏は力強く訴えた。