国立天文台、プリンストン大学、神奈川大学、ミシガン大学、工学院大学、オクラホマ大学などの研究者を中心とする国際研究チームは11月8日、すばる望遠鏡の観測装置で、世界最高の性能を有するとされる惑星・円盤探査カメラ「HiCIAO(High Contrast Instrument for the Subaru next generation Adaptive Optics:高コントラスト新コロナグラフ)」を用いて、太陽程度の質量を持つ若い恒星「PDS70」の近赤外線観測(波長1.6μm)を実施し、PDS70を取り囲む原始惑星系円盤に、生まれたばかりの惑星、しかも複数の惑星の重力の影響で作られたと考えられる、太陽クラスの軽い質量の恒星としては過去最大級となるすき間が存在していることを突き止めたと発表した。

成果は、国立天文台の橋本淳氏、すばる望遠鏡の工藤智幸氏、神奈川大の本田充彦助教、工学院大学の武藤恭之助教らの国際研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、観測的研究成果に関しては、10月10日発行の天文学術誌「THE ASTROPHYSICAL JOURNAL LETTERS」に掲載済みで、理論的研究成果に関してはプリンストン大学ロビン・ドン氏らの共著で2012年中に同誌に掲載される予定だ。

太陽のような恒星は、生まれたばかりの頃はガスと塵でできた原始惑星系円盤と呼ばれる円盤に取り囲まれていて、地球や木星のような惑星は、その中で生まれると考えられている。そのため、円盤が進化してどのような惑星系が誕生するかを調べるために、これまでにも多数の円盤の観測が行われてきた。

一般に、質量が重い星ほど円盤が大きく広がっているため観測しやすく、太陽よりも重い星の周りの円盤の詳しい観測がすばる望遠鏡でも行われてきた(「ぎょしゃ座AB」や「HD169142」)。

しかし、2009年からスタートした太陽系外惑星と原始惑星系円盤の大規模探査プロジェクト「SEEDS(Strategic Exploration of Exoplanets and Disks with Subaru)」のおかげで、太陽クラスの軽い質量の星であっても、その周りを取り巻く円盤の鮮明で詳しい観測が可能となったのである。

SEEDSは、国立天文台の田村元秀准教授(太陽系外惑星探査プロジェクト室長)が中心となり、2009年から約5年間にわたって、すばる望遠鏡で120夜の観測を投入する戦略的国際共同プロジェクトだ。現在までに、前述のぎょしゃ座AB、HD169142のほか、「リックカルシウム15」、「HR4796A」、「SAO206462」などの星の周囲にある円盤の詳しい構造を明らかにしている。

今回、SEEDSプロジェクトの一環として、すばる望遠鏡のHiCIAOを使用して観測されたのが、ケンタウルス座にある太陽に似た星、PDS70(距離はおよそ460光年、質量は太陽の約0.9倍、年齢は約1000万年の若くて軽い星)だ。

PDSとは、1990年代初頭に、ブラジルにあるPico dos Dias観測所において、若い星を探す比較的大きな規模の探査「Pico dos Dias Survey」から取られている。この探査で約100天体が観測され、PDSカタログとして登録されている。PDS70は、そのカタログの70番目にある星という意味だ。

PDS70には、星の光のスペクトル分布を詳しく調べた間接的な観測や、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTの直接観測により、円盤があることはわかっていたが、どのような構造をしているのかまではわかっていなかった。

すばる望遠鏡による観測の結果、PDS70を取り囲む円盤には半径70天文単位にまで広がった巨大なすき間が存在していることが今回初めて明らかになった(画像1)。

太陽クラスの軽い質量の星が持つ円盤のすき間としては過去最大級の大きさだ。ほかの8m級の望遠鏡では見つけることができなかったすき間だが、超高画質の画像を撮ることができるすばる望遠鏡/HiCIAOだからこそできた発見だという。

画像1は、すばる望遠鏡/HiCIAOによるPDS70を取り囲む原始惑星系円盤の近赤外線観測画像。中心付近は星の強い光の影響によるノイズが大きいため、黒く塗りつぶされている。また、カラーは擬似的に着色したもので、色は赤外線の強さを表す。白に近いほど赤外線が強く、黒に近づくほど赤外線が弱い。

画像からPDS70を取り囲む円盤に巨大なすき間があることがわかり、黒っぽい色の場所がすき間に対応する。半径1天文単位辺りにある内側の円盤は、中心星のすぐ近くにあるため画像では見ることができない。

画像1。すばる望遠鏡/HiCIAOによるPDS70を取り囲む原始惑星系円盤の近赤外線観測画像。(c) 国立天文台

巨大なすき間の中はどうなっているのかを調べるために、PDS70とその円盤からやってくる光のスペクトル分布の詳細な調査が行われた。その結果、半径1天文単位辺りにさらに円盤があることが判明。つまり、PDS70を取り巻く円盤は、画像2のように2重の円盤構造をしていることがわかったのである(内側の円盤は中心星であるPDS70のすぐ近くにあるため、今回の観測画像では見ることができない)。かつて観測された、ぎょしゃ座AB星と同様の構造だ。

このような2重円盤構造は、円盤に埋もれた惑星の重力的影響によるものだと考えるのが最も自然である。惑星の重力の影響により円盤の物質の密度が薄くなり、円盤に散乱される赤外線が少なくなったためにすき間のように見えているというわけだ。

しかも、1つの惑星でこれほど巨大なすき間を作り出すのは難しいため、いくつかの惑星によって作り出された可能性がある。ただし、すき間の中の物質が完全になくなったわけではないので、残念ながら惑星の微弱な光はわずかな円盤の物質に埋もれてしまって見えない。

画像2は、PDS70想像図。内側と外側に円盤があり、その間に巨大なすき間がある。すき間には生まれたばかりの惑星がいくつか周回しており、それら惑星の重力的な影響で円盤に巨大なすき間ができた可能性があるというわけだ。

画像2。PDS70想像図。(c) 国立天文台

従来は平凡な円盤にしか見えなかったPDS70の円盤だが、すばる望遠鏡/HiCIAOで観測して初めて、巨大なすき間があることが発見された。このような巨大なすき間は、いくつかの生まれたばかりの惑星の重力的影響によって作られたものだと考えられ、今後、すき間を作った惑星そのものの直接観測に期待が持てるという。

観測を主導した橋本氏は、「HiCIAOのおかけで、若い太陽に似た軽い星を取り囲む円盤の詳しい直接観測がようやく可能となりました。今回見つかったPDS70の円盤の姿は、私たちの太陽系が生まれて1000万年ほど経った頃の姿、つまり現在の太陽系の姿に進化してゆくまさにその最中を見ているのかも知れません。これからも惑星系が形づくられていく過程の、躍動的な円盤の姿をとらえてゆきたいです」と意気込んでいる。

さらに理論的解釈を主導したプリンストン大のドン氏は「原始惑星系円盤の中で惑星がまさに生まれている場所を直接観測することは、"いつ"、"どこで"、"どのように"惑星が生まれるのかを知る理想的な観測です。惑星によって作られたと考えられる巨大なすき間のある円盤を持ったPDS70は、円盤中で惑星がどのように生まれるのかを直接研究するための橋頭堡の役割を果たすでしょう」とコメントした。