関西大学(関西大)と帝人は9月6日、ポリL乳酸(PLLA)とポリD乳酸(PDLA)の2種類のポリ乳酸フィルムを用いることで、簡便な積層プロセスにより製造できる圧電材料を開発したと発表した。透明かつ柔軟性に富み、従来にない高い圧電効果を有するという。成果は、関西大 システム理工学部 田實佳郎教授、帝人 新フィルム開発推進室によるもの。

従来、圧電材料としては無機系物質が多く使用されており、その中でも圧電効果の高さから、一般的にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が用いられている。PZTは、鉛を含有する特定有害物質だが、他に代替可能な材料がないため、EUにおける電子機器類への使用制限令の適用免除対象となっている。また、セラミックスのため、柔軟性に乏しく、大型化や軽量化が難しい。こうしたことから、PZTの代替となる高い圧電効果に加え、透明性や柔軟性、大型化・軽量化が可能、簡便な製造プロセスで生産できる、環境に配慮しているなどの特長を持った圧電材料の開発が望まれていた。

有機系の圧電材料としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)が知られているが、逆圧電効果による作用が弱く、さらに熱により電荷が生じるため、電気電子部材としての用途はセンサなどに限られている。加えて、PVDFやPZTは、圧電性能を発現させるために製造過程で直流高電界を与える必要があり、エネルギー負荷の高い製造方法となっている。

これに対し、ポリ乳酸は延伸することで配向され、特定方向に圧電効果が生じるが、その効果は低く、実用化に至っていなかった。また、圧電材料を積層することで圧電効果が大きくなるが、ポリ乳酸は圧電効果によりひし形に変形(ずり変形)することから、効果が発生する方向を揃えて積層することが難しいため、連続生産や積層数の調整が困難とされていた。

図1 1種類のポリ乳酸フィルムによる積層フィルムの問題点

今回、開発したポリ乳酸積層フィルムは、PLLAフィルムと、その光学異性体(キラル高分子)であるPDLAフィルムを積層させたもので、PZTを凌駕する圧電効果を発揮すると同時に、従来以上に大型化・軽量化に加え、柔軟性を有する圧電材料となっている。また、有機電極などを使用することにより、透明性のある圧電材料を製造することもできる。PLLAフィルムとPDLAフィルムは、同一方向の電界において正反対の動きをする物質で、この特性を利用することにより、双方のフィルムの間に正極と負極を交互に挟み込むだけで、2種類のフィルムの動きを同一方向に合わせることができ、より簡便かつ実用的なプロセス(共押出法)で製造できる。さらに、この積層フィルムは、積層数により、その圧電効果をコントロール可能なことから、顧客のニーズに応じて圧電効果を自由に設定することができる。

また、田實教授の研究により、ポリ乳酸はある一定の純度を超えると圧電性が向上することが解明されており、帝人のポリ乳酸精製技術から生まれた高純度PLLAおよびPLDAを使用することで、より高い圧電効果を発揮することができるという。

図2 PLLAとPDLAの積層フィルム

今回、開発した圧電材料は、従来のPZTでは対応が難しかった部位での、圧力や振動、衝撃などを感知するセンサ用途や、超音波モータ、医療用超音波振動子、スピーカーなどにおけるアクチュエータ用途など、幅広い用途での実用化に向けた研究開発を進めていく方針。帝人は、L乳酸とD乳酸によりステレオコンプレックス構造を形成することで、耐熱性を210℃以上と飛躍的に高めた高耐熱性バイオプラスチック「バイオフロント」を2006年より展開しているが、今後もポリ乳酸の新たな可能性を追求し、付加価値の高いポリ乳酸製品を開発・市場展開していく考えとコメントしている。

図3 従来のPZTと新開発の圧電材料