米Freescale Semiconductorは、現在バルセロナで開催されているMWC(Mobile Wireless Congress)会場において、LTE基地局向けプロセッサであるQorIQ B4860を発表したが、これに関する説明会が2月28日にフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンで開催された(Photo01)。

Photo01:説明を行われた岩瀬肇氏(事業統括本部 ネットワーク・セグメント・マーケティング担当部長)

B4860は、2011年に発表されたQorIQ Qonvergeシリーズの後継製品にあたる(Photo02)。昨年発表されたPSC9131はFemto Cell向け、PSC9132はPico cellなのに対し、今回のB4860はMacro Cell向けのエンド製品となっている。ちなみにこの後もう少し小さなMetro Cell向けを提供しているという。また長期的には、例えばFemto Cell向けを28nmプロセスで作り直して省電力化といった可能性もあるが、こうした先の展開に関してはまだ顧客ニーズをヒアリングしつつ検討をしている段階だそうだ。

Photo02:名前が統一されていないが、これは昨年の段階ではまだネーミングルールが確立していなかったからで、今年はQorIQ Bシリーズの名前を当てる事に決めたが、既にPSC9131/9132はこの名前で広く使われているので、顧客の混乱を避けるために名前は変えていないとの事

Macro Cell向けの特徴としては、とにかくまずは高い処理能力と様々なネットワークに対応できることが必要であるが(Photo03)、当然コスト面での要求も厳しい(Photo04)。また、今は統合型のMacro Cell(Baseband Unitとアンテナが一体になった構造)が多いが、今後は様々なHeterogeneous構成や、更にその先にはCloud RANといった話も出てきており、こうしたものについての対応も考慮する必要があるとしている(Photo05)。

Photo03:言うまでもなくLTEやLTE Advancedへの対応が今もっとも大きな課題ではあるが、同時に今後登場する新しい基地局の形態や、逆に既存の3Gや3.5Gの基地局の機材刷新もやはりターゲットになる

Photo04:コストに関しては、絶対的な金額もさることながら、全体のサイズや消費電力もランニングコストに大きく関係してくる

Photo05:Cloud RANについては後述

B4860はこうした要求に応えるべく、28nmプロセスで製造され、e6500コアを4つとStarCore SC3900を6つ、それにBaseband/Packet Acceleratorを組み合わせたかなり大規模なSoC構成となっている(Photo06)。

Photo06:CPUコアは最大1.8GHz、DSPコアは最大1.2GHzで動作する。CPUコアはSMT構成なので2倍と勘定すると合計に21GHz以上、という計算になるが、流石にこの数字にはあまりに意味が無い気がする

CPUコアは昨年発表したQorIQ AMPに使われているものと同じで、従来のPSC9131/9132に利用されたe500コアと比べて2.4倍の性能を持つとされる(Photo07)。

Photo07:最もこれはe6500コアが2Thread動作で、またe500コアは1.5GHz動作という事も考える必要はあるが

一方のDSPコアは、同社のStarCoreシリーズとしては初めて28nmプロセスを使って製造されたもので、1.2GHz動作で38.4GMACSの性能を出すものが6つ搭載される形だ(Photo08)。固定機能のBaseband/Packet Accelerationに関しては、従来から同社が提供してきたMAPLE-Bと各種Packet Acceleratorが搭載されている(Photo09)。

Photo08:SC3900は2コアずつクラスタリングされ、それぞれに共用2MBのL2キャッシュを持つという構成になっている

Photo09:Baseband側は厳密に言えば従来のMAPLE-B2に代えて、LTEに対応したMAPLE-B3に進化している

こうした構成でどんなことが可能になるか? というこのがこちら(Photo10)。例えばLTEの基地局であれば、20MHz帯域で3セクタ/24アンテナを制御し、トータルで1.4Gbpsのスループットを持つ基地局が、B4860を1つ使えば完成するわけだ。この結果として、例えば従来製品ならば基地局を構成するのに5つのコンポーネントが必要だったものが、B4860で済む事になり、部品原価のみならず実装も小型化できるし消費電力も下げられるといったメリットが出てくるという訳だ。

Photo10:勿論LTE以外にもWCDMAや中国向けのTD-SCDMAにも対応している

Photo11:従来製品だとセクタ別にDSPを1個ずつ配し、Serial RapidIO Switch経由でパケット処理を行う形になっていたのが、1チップ化できるようになった、ということ

B4860の開発キットは、B4860のサンプル開始(2012年第2四半期を予定)にあわせて登場するとしているが、それとは別にFreescale自身のLinuxの対応を進めており、また各社からOSその他の環境が提供されるほか、仮想プラットフォームはMentor Graphicsから、開発ツールはFreescaleのCodeWarriorで、アプリケーション向けの各種ライブラリやミドルウェアはやはりFreescaleのVortiQaなどとして提供される予定だ(Photo12)。ちなみにPhoto13が従来の製品とB4860の比較である。

Photo12:まだここに記されたものが全て入手可能というわけではなく、このあたりは「順次提供」という形になるようだ

Photo13:今はPSC9132とB4860の間がちょっと大きな性能ギャップがあり、これを埋めるような製品が次に予定されている

ところで、今年のMWCでも、各社がこのLTE基地局向けソリューションを一斉に投入してきている。LSI CorporationはAXM2500という、やはり基地局向けコントローラを発表したし、TIはCortex-A15のクラスタとTMS320C66x DSPを合計32個も組み合わせたKeyStone IIを発表した。またCavium Networksは先日発表されたOcteon IIIという、2.5GHz MIPS64コアを48個も集積したSoCでやはり基地局向けを狙う。今のところこのネットワークプロセッサでは、市場の半分以上(2010年のデータでは、市場シェアの53%)をFureescaleが握っているが、ただ当然他のメーカーもこれを指を加えてみている筈もなく、28nm世代での仕切りなおしを狙っている。このあたりがLTEの普及でどう変わってゆくのか、はちょっと興味深いところである。

ところで先にPhoto05で出てきたCloud RANについてもう少し。これは何かというと、BaseBand Unitと実際のアンテナを分離し、BaseBand Unitを集約するという発想である。もっとも、単にアンテナ部を分離するだけ、というのは例えば既に技術的にも実装的にも存在しており、例えばNTTドコモは2009年にLTEに対応した光張出しの導入を始めている。これは要するに、NTT東西の基地局にBaseband Unitを設置、そこから光ファイバを伸ばしてアンテナを接続するという仕組みである。Cloud RANはもう少し先の話で、もっと積極的にBaseBand UnitのリソースをPoolしておき、Demandに応じてBaseband処理のリソースを必要とするアンテナ部(Remote Radio Head)に振り分ける、といったいわゆるCloud的な発想で、昨年位からキャリアや基地局向けベンダなどの間で話し合いが始まっているとか。ただまだ構想が出始めたというレベルで、Photo05ではCPRIでとりあえず切っているけど、そこで切るのが正しいかどうかもまだ判らないし、標準化とかいう動きは全く始まっていないそうで、実現するとしてもまだだいぶ先の話にはなりそうであるが、こうした話に積極的に参画してゆくことが、今後もシェアを握り続けるためには重要であると同社は認識しているようであった。