2011年10月21日・22日に千葉県柏市の「東京大学柏キャンパス一般公開2011」が開催され(画像1・2)、その中で人工物工学研究センターサービス工学研究部門の太田順教授の「移動ロボティクス研究室」によるロボット系のデモンストレーションが行われた。全体像がわからない未知の形状の物体を認識して把持できる部分を探し出し、1台だけでは持ち運びできない場合は2台で連携して運ぶという、認識とロボット同士の協調などを扱った内容である。その模様や、仕組みなどを紹介したい。

画像1。東大柏キャンパスは面積が32万452m2ある。東京ドームのグラウンドの面積が1万3000m2ということなので、24面分の広さを持つ。西側の大気海洋研究所の施設から東側の総合研究棟の前を走る直線路はおそらく2kmぐらいあるはず。端から端までは、徒歩だと確実にクタクタになる

画像2。宇宙線研究棟および総合研究棟。1つの建物となっているが、手前側が宇宙線研究棟で、奥が総合研究棟と分かれている。一般公開では、ロボット系のデモや展示は総合研究棟で行われた

太田研究室では、「人間と相互作用するマルチエージェント系によるサービス実現」として、「製造・物流・サービスの最適化」、「複数ロボットによる稼働物体の再配置作業」、「人間や生物の適応機能の解明」といったことを研究している。製造・物流・サービスの最適化も、マニピュレータシステムや作業計画の立案の自動化・高速度化・高精度化といったロボット要素が関わってくる内容だが、今回のデモは、2番目の複数ロボットによる稼働物体の再配置作業に関するものが行われた。

複数ロボットによる稼働物体の再配置作業とはどのようなことかというと、群ロボットにより稼働物体を初期位置から目標位置まで運ぶ再配置作業というもの(画像3)。生産現場における資材搬送などのアプリケーションに含まれる基本的な作業を、複数台のロボットに協調させて作業をさせるという内容だ。

画像3。2台の移動ロボットが連携してデモを行っている様子

群ロボットによる複数作業の実現を考えた場合、どの作業が別のどの作業に優先するかという順序制約をロボット自身が発見し、それを基に自律的に作業手順を決定できるようになることが重要となる。

また、この作業は複数のロボット・稼働物体が関わる非常に複雑なものであることから、従来方法を用いてロボットの行動計画を立案することが計算コストの観点から難しいという一面も持つ。

今回のデモでは、「Territorial Approach」と呼ばれる手法によって、「群ロボットによる再配置問題」を「Project Scheduling Problem」というある種のスケジューリング問題と、「単体ロボットの経路計画問題」の組み合わせで表現できるような制御アーキテクチャを採用している。シミュレーションと実験により、提案手法の有効性が示されたという。

また、ロボットはあらかじめ再配置すべき目標物体のサイズを教えられているわけではないため、それでもその目標物体を把持するため「スキャナ式距離センサを用いた局所的な情報獲得に基づく移動ロボットの未知物体把持」や、複数台のロボットが協調して目標物体を把持するための「複数台の移動ロボットによる大型物体の協調ハンドリング」という研究テーマが盛り込まれている。

スキャナ式距離センサを用いた局所的な情報獲得に基づく移動ロボットの未知物体把持は、ロボットにとっては形状やサイズのわからない未知の物体を、センシングすることで把持できる場所を割り出させ、実際に把持させるという研究テーマである。例えば工場において搬送作業などさまざまな応用対象を有していることから、生産現場用ロボットのインテリジェント化という面では非常に重要である。

今回のデモでは、上下に2台並べたスキャナ式距離センサ(それぞれスキャンする角度は変えてある)を搭載した移動ロボットが、あらかじめ形状モデルを持っていない未知物体の局所的な形状情報を獲得して把持位置を認識することで物体把持を行った。ロボットには、前進しながら距離情報を蓄積することで物体の把持位置を抽出するアルゴリズムが搭載されているのだ。

なお、ロボットは国内ではリバストが販売代理店となっている、米MobileRobotsの知能機動型ロボットシステム「PIONEER-3DX」(画像4)をベースにして作られている。つくばチャレンジなどで、プラットフォームとして採用しているロボットが多数登場するので、見たことがある方も多いはずだ。

画像4。スキャナ式距離センサを2個上下にセットしてあるのが見える。本文で後述するが、こちらはリーダー的な役目も持った把持担当のグリッパロボット

そして物体に関する距離センサ情報が以下の3つの条件を満たす時に、ロボットに搭載した並行グリッパによる把持位置が存在するとして、物体をつかみに行くという仕組みだ。条件1は、物体に平行な表面または平面が存在すること。条件2は、当該平行表面/平面の間の距離がグリッパの最大間隔よりも短いこと。条件3は、当該平行表面/平面の外側にグリッパを差し込める空間が存在することとなっている。

物体の周囲を移動してセンシングした結果、前述の3条件を満たしている場所があったら、その位置よりもある一定距離後方にロボット後退させ、再度物体を計測して3条件を満たしていることを再確認した上で、把持できる位置まで前進して作業を開始するという流れだ(画像5・6)。

画像5。グリッパロボットが、目標物の形状の内、自分の備えるグリッパでつかめる場所がないかをセンシング中。横からなのでつかめないため、移動することに

画像6。移動して細い面の側に来たグリッパロボット。まだ角度的にずれているが、この面からなら把持できるのがわかるので、アプローチしていくことになる

なお、最初のセンシングで把持可能な位置を発見できない場合は、物体周縁を一定量周回した地点(要は別な角度から)で同様な計測を行い、把持位置が計測されるまで周回を続ける容易なっている。

デモでは直方体のプランターを目標物としていたが、実験ではフライパンやイスなども目標物とし、それらを90%以上の確率で把持できたそうだ(もちろんモデルを持っていない未知の物体として扱っている)。デモでは、重たいために1台では持てないので、後述するが2台で協調して持ち上げて動かしていたが、「未知の形状の物体において把持できるところを認識する」という様子を見て取ることはできた(画像7)。

画像7。グリッパで挟める角度を見つけ、また周囲に何もないことから、目標物であるプランターにアプローチして実際に把持したところ

なお、今回のアルゴリズムは、未知の物体の周囲を回ってセンシングし、3Dモデルを構築する方法(全体の形状をとらえる方法)とは異なり、つかむのに不必要なセンシングやモデリング構築は行わないので、49%も作業時間を減らすことができたという(画像8)。

画像8。3Dモデリング構築手法と、今回のモデルの目標物を把持するまでに要した時間の比較。青い方が3Dモデリング構築手法で、赤が今回の手法。今回の手法で、ポットやプライパンの把持は時間がかかっているが、それでも3Dモデリング手法の3/4ぐらいにはなっており、そのほかは半分以下となっている(移動ロボティクス研究室研究紹介PDFより抜粋)