産業技術総合研究所(産総研)サステナブルマテリアル研究部門 相制御材料研究グループ 尾崎公洋研究グループ長および高木健太 研究員は、重希土類元素であるジスプロシウム(Dy)を含まない等方性サマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末を90%以上の高い相対密度で焼結する技術を開発したことを発表した。

Sm-Fe-N系磁石粉末はネオジム-鉄-ホウ素(Nd-Fe-B)系磁石に次ぐ高い磁石特性を持つ材料。Nd-Fe-BはDyを添加して保磁力を高めているが、Dyは重希土類元素で、地殻埋蔵量が少なく、かつ採掘できる場所が限られているため、輸入価格の高騰などの影響を受けている(国内のNd-Fe-B系磁石用Dyはすべて輸入品)。そのためSm-Fe-N系磁石が、Dyを使用しない高性能磁石材料として期待されているものの、磁石粉末としての特性は高いが、500℃以上の高温で焼結すると磁石特性を失ってしまうため、通常の焼結法では高特性の焼結磁石が作製できず、磁石粉末を樹脂などで固めたボンド磁石だけが製品化されていた。

産総研では、Dyを使用しない高性能磁石の開発を目指し、Nd-Fe-B系ではない磁石の実現に向けSm-Fe-N系磁石粉末を焼結する技術開発を進めてきており、アモルファス合金粉末を低温で高密度に焼結する技術を開発。これを用いてSm-Fe-N磁石粉末の焼結を行ってきたが、これまでは密度を上げることができず、最大エネルギー積100kJ/m3に満たなかった。今回、こうした焼結技術をさらに高度化することで、Sm-Fe-N系焼結磁石のエネルギー積の向上を図った。

具体的には、Sm-Fe-N系磁石粉末の磁石性能の低下を防ぐために400℃程度の低温での焼結で、しかも高い相対密度の焼結磁石を作製するために、パルス電流によって焼結するパルス通電焼結法に、荷重制御をするためのサーボプレスを組み合わせた焼結法を用いた。

パルス通電焼結法の概略図

パルス通電焼結法は、粉末の入った金型に電流パルスを流して焼結を行うもの。通常、金型と粉末は電気抵抗を持つため、そこを電流が流れると金型や粉末自身が発熱する。すなわち、直接加熱する手法であるため、短時間での昇温が可能で結晶構造の変化を防ぐことができる。さらに、パルス電流を使うことで、粉体の温度を上げることなく粉末界面での結合を促進することができる。これらにより、元の粉末特性を低下させることなく焼結することが可能となったという。

また、今回のパルス通電焼結法では、サーボプレスによるプログラム荷重制御を行うことで緻密化を促進させたほか、金型には超硬合金を使用し、サーボプレスによる荷重を大きくし相対密度の増大につなげており、これらの技術により低温で、稠密な焼結体を作製することができたとしている。

実験では、大同特殊鋼の等方性Sm-Fe-N系磁石の粉末を用いて、焼結温度400℃、保持時間1分で90%以上の高い相対密度の等方性焼結磁石を作製(作製された磁石のサイズは直径6~15mm)。作製した等方性Sm-Fe-N系焼結磁石の特性は残留磁束密度0.91T(9.1kG)、保磁力770kA/m(9.68kOe)、最大エネルギー積129kJ/m3(16.2MGOe)となり、最大エネルギー積以外は元の磁石粉末の90%以上を保持し、最大エネルギー積も約88%の性能を維持していることが確認された。

今回開発したSm-Fe-N系焼結磁石の例

今回、作製された等方性Sm-Fe-N系焼結磁石は、材料特性の改善や結晶制御により、さらに性能を高めることが期待できるほか、磁石材料の選択肢にDyを使用しない磁石材料をつけ加えることで、資源の寡占状態の緩和に貢献することが期待されると研究チームでは説明している。

今回開発した直径15mm、厚さ6mmのSm-Fe-N系焼結磁石を2段重ねにしたもので1個約4gの鉄球30個が磁着している様子

なお、研究チームでは今後は、異方性のSm-Fe-N系磁石粉末を用いて異方性焼結磁石を開発するとともに、焼結技術だけではなく、磁石粉末自体の研究開発を行い、さらに高性能なSm-Fe-N磁石の開発を目指すとしている。