高輝度光科学研究センター(JASRI)と京都大学の北川宏 理学研究科教授および大坪主弥 同研究員らによる研究グループは、選択的な分子の取り込みが可能な半導体ナノチューブを作製することに成功したことを発表した。同成果は、英国の科学誌「Nature Materials」(オンライン版)に2011年2月27日(英国時間)に掲載された。

物質内部に無数の細孔を有する「多孔性材料」と呼ばれる物質は、その細孔内に分子を取り込んで吸着する性質を持つことで注目され、古くから研究が行われてきた。内部にナノメートルサイズの細孔を持つことで知られるカーボンナノチューブ(CNT)も多孔性材料の1つで、その性質から、エレクトロニクスなどの機能性材料への応用が期待されている。しかし、CNTを作製するには黒鉛を放電やレーザーで1000℃以上に加熱し蒸発させたりする必要があり、チューブのサイズや形状、そして性質を精密に制御し作製することが困難であった。

近年、新しい多孔性材料として金属イオンと有機分子を用いたボトムアップ法により生成する多孔性配位高分子(PCP:Porous Coordination Polymer)が注目を浴びているが、これらは従来の多孔性材料に比べて高い空隙率や結晶性を有しているほか、設計性や物質群としての多様性にも優れており、細孔のサイズ、形状、性質だけでなく物質の安定性なども構成要素(パーツ)となる金属イオンや有機分子を組み換えることでコントロールすることができるという特徴を有している。

今回の研究では、新しい多孔性のナノチューブの作製法として、金属イオンと有機分子からなる金属錯体をパーツとして用い、望みの構造に組み上げるボトムアップ法に着目。白金イオン(Pt2+)と4,4'ビピリジン、エチレンジアミンから構成された一辺がおよそ1nmの正方形状の金属錯体とヨウ素を室温で反応させたところ、正方形状の金属錯体がヨウ素を介してつながった四角柱状のナノチューブの作製に成功した。

図1 ボトムアップ法を用いたナノチューブの作製。四角形型の金属錯体とヨウ素の反応から、四角柱型のナノチューブが生成される

単結晶X線結晶構造解析を行うことで、対角方向の直径がおよそ1.5 nmの内細孔を持つナノチューブの構造を決定できた。作製直後のナノチューブには細孔内に大量の水分子が取り込まれているが、大型放射光施設SPring-8におけるX線吸収微細構造の測定から、細孔内の水分子をすべて取り除いてもナノチューブは壊れずに安定に存在していることが明らかになった。

図2 単結晶X線結晶構造解析により明らかになったナノチューブの構造。図1で示した反応から、想定したナノチューブが組み上がっていることが分かる。図中において白金はオレンジ色、ヨウ素は紫色、窒素は青色、炭素は灰色で示されている

また、細孔内の水分子を取り除いたナノチューブをさまざまなガス分子の蒸気にさらしたところ、水やアルコールの分子は取り込まれるのに対して、窒素や二酸化炭素の分子は取り込まれていなかったほか、紫外可視吸収スペクトル測定から、このナノチューブは半導体材料であるSiより低いバンドギャップを持つ半導体であることが判明した。

図3 得られたナノチューブのガスの取り込みの様子。水(赤色)、メタノール(青色)、エタノール(緑色)の分子の吸着量はガスの蒸気圧とともに増加し、これらの分子がナノチューブ内に取り込まれていることが分かる。一方の、窒素(オレンジ色)はまったく取り込まれていない

さらに、外気の湿度を変化させたり、ナノチューブのパーツをヨウ素から臭素や塩素などに変えて作製したりすることで、バンドギャップの大きさを連続的に変化させられる性質があることも分かった。

これらの成果について研究グループでは、基礎面として、ナノチューブ状の物質の作製はこれまでに多くの研究例があるものの、カーボンナノチューブの例を除き、ガス分子の取り込みや電子的な性質について議論された研究例はなかったが、ボトムアップ法を駆使した形状の整った多孔性のナノチューブ作製法を示しただけではなく、そのガス分子の取り込みや電子的な性質を詳細に明らかにすることに成功したと言えるとする。

また、応用面として、今回の研究で得られた多孔性ナノチューブは、内部の細孔にさまざまな分子を選択的に取り込む機能を持っているだけでなく、半導体としての性質も併せ持っており、さらに湿度の変化や構成要素の組み換えによりその性質を変えることも可能となっているものであり、これらの性質を用いることでガス分子に対して敏感に応答するセンサ材料や、化学的なドーピング処理により電導性をコントロールすることで、ガス吸着能と導電性を併せ持つ新たな多機能電子デバイスへの応用につながることが期待されると説明している。