EMCにて長い間、世界中のソリューションズセンターを指揮してきたホン・クウェック氏。サンタクララのラボではVblockによる大規模な検証が行われており、同氏はアプリケーション運用やSAP ERP環境構築に関する部門を統括する。東京工業大学出身で日本語も堪能

2009年11月、米国でEMC、Cisco、VMwareの3社がアライアンスを提携、企業のプライベートクラウド構築を支援するVCE連合(Virtual Computing Environment)が誕生した。このVCE連合の最大のウリは、サーバ、ストレージ、ネットワーク、仮想化といった3社の技術を詰め込んだワンパッケージクラウドソリューション「Vblock」だ。「すぐに利用可能、しかもワンコントロールポイントで運用できる」(シスコシステムズ 専務執行役員 石本龍太郎氏)という手軽さを前面に押し出している。すでに米国をはじめとする世界各国においていくつかのVblock導入事例が発表されている。

日本市場では今年2月から提供を開始しており、このほど初の導入事例が決定したという。3社はこれを機に、さらにVblockの国内販売に力を入れていくとしている。数あるクラウドソリューションの中で、VCE連合が自信をもって展開するVblockの強みはどこにあるのか。10月15日、EMC出身で、現在は米VCEのサンタクララ イノベーションセンターにおいてシニアディレクターを務めるホン・クウェック(Hong Kwek)氏が説明を行ったので、その内容から紹介したい。

仮想化とクラウドソリューションに対する顧客の現状

VCEは今年7月、仮想化およびクラウドソリューションに関する調査を、ニューヨーク、ロンドン、フランクフルト、カリフォルニア、シドニー、シンガポールの全94の企業を対象に行った。調査対象となった企業の66%は従業員5,000人以上の大企業で、業種は金融、製薬/バイオ、運輸、テレコム、小売/流通など多岐に渡る。

まず仮想化環境については、成熟度を

  • ベーシック … テスト段階、あるいは検討段階
  • マネージド … 本番環境で少なくとも1つ以上のアプリケーションを仮想化して運用
  • アドバンスト … 可能な限り仮想化を実現
  • クラウド … インフラのほとんどをクラウド化

の4段階に分けて調査したところ、過半数の企業がマネージドに相当するレベルにあり、さらにその半数は上級レベルに移行中だという結果になった。また、いくつかの都市においては、仮想デスクトップが次のターゲットとなりつつあるという。加えてその次のトレンドとしてはディザスタリカバリが挙げられている。

とはいっても、現状では77%の企業が「全社レベルでのクラウド化までは検討していない」という回答だった。しかし、これらの企業もデータセンターの一部を共有仮想プールとして構築するメリットは、コスト削減の面からも十分に認めており、「インターナルクラウドへとシフトする企業は増えていくことが予想される」とクウェック氏は分析する。

調査した96社の仮想化成熟度。アドバンストやクラウドに相当する一部の企業は、完全に自動化されたデータセンターの構築をも検討しているという

In/On/With a Vblock - Vblockがプライベートクラウド化のためにできること

では、未だクラウド化に難色を示す企業、あるいは仮想化から先に進めない企業、現状よりさらにクラウド化を進めたい企業 - こうしたさまざまな企業に対し、Vblockは何を提供できるのか。クウェック氏は、

  • In a Vblock
  • On a Vblock
  • With a Vblock

の3つからなる、システム全体を包含したソリューションを強調する。

まずは"In a Vblock" - 「Vblockにはもちろん業界トップの3社による最新の技術が使われているが、設計自体は非常にシンプルで、長期に渡る使用に耐える構造になっている」とクウェック氏。最先端のテクノロジを集約したパッケージだからこそ、将来的な拡張性を担保するには、その設計はオープンでシンプルでなければならない。これを実現するため、Vblockではモジュラー方式を採用し、必要に応じてキャパシティが追加できるようになっている。管理ソフトウェアのインタフェースも統一されており、EMCのFASTやVMwareのvMotionも同じコンソールから利用できる点もポイントだ。

Vblockはデータ連携をシンプル化するために、コントロール用の経路、運用ソフトウェアを制御する管理経路、アプリケーションサービス経路、そしてディザスタリカバリ/バックアップ用の経路と大きく4つの経路に分けている

次に"On a Vblock" - VCEでは現在、サンタクララのイノベーションセンターにて、Vblock上で大規模なSAP環境を稼働させ、検証を続けている。クウェック氏によればSAPだけでなく、Oracleアプリケーションの稼働もすでに実証されているという。多くの企業で採用されているエンタープライズアプリケーションワークロードの仮想化はプライベートクラウドを推進するVCE/Vblockにとって非常に重要なミッションであり、この事例が多く生まれることがVblockの成功を左右するといってもいいだろう。クウェック氏は最近の事例として、巨大なSAP環境(2万"SAPs"値)を抱える某大手衣料品小売業のケースを紹介し、Vblockを導入したことでワークロードの80%を仮想化するという目標が達成できたという。パフォーマンス向上、TCO削減という大きな成果を得られた同社はVblockに非常に満足し、今度はディザスタリカバリにおける採用を検討しているという。

Vblockはディザスタリカバリにおいて威力を発揮することが期待されている。たとえば3台のVblock(1、2、DR)があり、Vblock 1のデータをVblock 2に同期してバックアップし、Vblock 2からVblock DRへは非同期で連携することで強力な災害対策システムを構築できる

そして最後の"With a Vblock" - これは最近、多くのクラウドベンダが提唱しはじめたデータセンター間の連携、あるいはパブリッククラウドとの連携が焦点になっている。つまり企業内データセンターを補完するものとして外部データセンターやパブリッククラウドを含む外部リソースと連携するニーズが今後増えてくると見ているのだ。また、買収で新たに子会社となった企業と急遽、データセンター連携を実現する必要に迫られたときなどに効果的なソリューションとなる。このとき重要になるのは、セキュリティの確保、そしてデータセンター間の距離にかかわらず、無停止でアプリケーションが移動できることだ。「VblockではCiscoのOTV(Overlay Transport Virtualization)技術によって、VLANを経由してシームレスにデータセンター間でアプリケーションの移動が可能になっている。管理すべき物理ハードウェアが増えても、IPアドレスやMACアドレスにまつわる面倒な設定変更も必要ない」とクウェック氏。データセンター間の距離的制約については、「おそらく来年までには2,000km離れていても無停止移動が可能になるだろう。2012年には1万km離れていても問題ないようにしたい」としている。

最近話題になることが多いデータセンター間の連携。複数のデータセンターをあたかも1つのデータセンターのように扱うことは、EMCがここ数年、非常に力を入れている技術でもある。Vblockが目指すのは「境界線のないデータセンターの実現」(クウェック氏)だ

VCEは米国では3社のジョイントベンチャーとして設立されているが、日本ではその動きは現在ない。ただし、3社がばらばらにVblockの販売やサポートを行うのではなく、共通のパートナーを通して販売したり、それぞれが人員を出して一緒にサポート業務を行うなど、3社によるシナジー感を積極的に出していきたいとしている。

3社によるワンストップソリューションという非常にユニークなモデルのVblockだが、仮想化すらまだ検討段階の企業が多い日本市場にあって、成功事例がどれだけ増えるのかは、正直、未知数だ。Vblockは用途/規模にあわせてエントリモデルのVblock 0、ミッドレンジモデルのVblock 1、ハイエンドモデルのVblock 2の3つのモデルが用意されている。小規模な仮想化ニーズをエントリモデルで狙うのか、それとも最初から大企業狙いでハイエンドモデルにフォーカスするのか - 今後、3社が足並みを揃えた戦略をとっていけるかどうかが成功への大きなカギになる。