産業技術総合研究所(産総研)の情報技術研究部門 スマートグリッド通信制御連携研究体は、太陽光発電パネルからの直流電力線をそのまま通信線に利用する通信技術を開発、試作機による原理実証に成功したことを発表した。これにより、太陽光発電パネルごとの発電状況をモニタリングして、パネルの不具合検知やメンテナンスができるようになるとしている。

一般家屋における太陽光発電システムは、一度屋根に設置するとメンテナンスされることはまれであり、出力低下からパネルの不具合が予想されても、現状では不具合のあるパネルを特定することが難しいという課題があった。こうした不具合が放置されると、本来発電されるべき電力をロスすることとなり、太陽光発電システムの能力が十分に発揮されない可能性があり、結果として費用対効果の面から、太陽光発電の普及の妨げとなることが想定される。

産総研では、こうした課題解決に向けパネルからの直流電力線をそのまま通信に利用して、パネルの発電情報を送れば、新たな通信ケーブルを敷設することなく安価に発電のモニタリングができることに注目。新たな通信方式の開発などを進めてきた。

太陽光発電パネルの端子箱に実装した通信子機。左が太陽光発電パネルの裏側、右が端子箱内に実装した通信子機

今回試作した通信装置の子機は小型で、太陽光発電パネルの端子箱に収納でき、安価(量産時で200円以下を目標)に生産できる。また太陽光発電パネルからの直流電力線をそのまま通信に使用、CDMAを応用したノイズ耐性の高い通信方式を採用することで、新たな配線工事を不要とした。

システムの全体構成。通信子機は、市販の安価な電子部品で構成した

さらにパネルごとの発電状況の推移を親機の画面に表示できるので、これまでよりパネル不具合の検知が容易になるほか、太陽光発電パネルごとに最大電力を取り出せるようにするための分散型最大電力点追従(MPPT)に用いる高効率な電力変換回路方式(スイッチング回路方式)も開発。これにより発電パネル全体での日照条件などの影響を軽減できるようになったほか、同回路による直流-直流の電力変換で98%の効率を達成した。

通信子機(左)と通信親機(右)の試作基板。この通信方式では低い周波数を用いているので、無線通信への影響は一切なく、太陽光発電パネルの電圧、電流の推移をパネルごとにモニタリングができ、不具合検知など、パネル単位での太陽光発電システムの監視を行うことができる

なお、産総研では、このような太陽光発電向けスマートグリッド技術により、低コストで太陽光発電パネルを不具合のない状態で高効率に稼働できるので、太陽光発電システムの普及を加速し、低炭素社会実現に貢献すると期待されることから、今回の試作機をベースに、耐ノイズ性の強化、装置の小型化、低コスト化をはかり、早期の技術移転により実用化を目指すほか、太陽光発電パネルからのモニタリング情報を元に、不具合を検出するためのアルゴリズムの開発を進める予定としている。

太陽光発電パネルのモニター画面例。新たに開発された分散型MPPTに用いるスイッチング回路ではトランジスタのオンオフを行っているが、オンオフに伴って失われるエネルギーを、コンパクトな回路で有効に回収できるため、直流-直流の電力変換効率98%が達成されたという