NECは6月18日、周波数分割多重(FDM)された信号を独自の時分割復調処理することで、従来比約10倍の速度・電力性能を実現する無線技術を開発し、同技術を搭載した無線LSIを試作、基本動作を実証したことを明らかにした。また、同社では併せて、LSIで受信した電波エネルギーのうち、復調に使われない電波エネルギーを電力に変換、再利用する技術も開発したとしている。同成果は、6月15日から開催されている「2009 Symposium on VLSI Technology」において発表されたもの。

従来、ZigBeeやBluetoothなどで使われていた、ただ1つの搬送波のみで変調をかける単純な変調方式(シングルキャリア伝送)において、消費電力が数mWで最大3Mbps程度であった通信性能を、今回開発した技術を用いることで、3mWの電力かつ、FDMで到達可能な27Mbpsに高性能化。これにより、ボタン電池程度の低消費電力で動画伝送も可能な通信が実現できるようになる。

また、無線LSI内のフィルタや増幅処理の中で熱雑音に変換され、LSI外に捨てられていた電波エネルギーを、電力に変換する技術も開発。数cm以下の近距離において、復調の対象ではないデータや妨害波などを、時分割実行に連動して電源電力に変換する処理を追加したことで、必要な信号をすべて復調できるとともに、不要な信号からの電力回収を実現した。

加えて、今回試作されたLSIでは、通信環境に応じて電力供給を補助する信号も追加することで、受信器の消費電力の1割を賄えることを実証。同社では今後、電力変換部の整合や変換回路を改良することで、2~3年後をめどに3割、長期的にはさらなる向上を狙うとしている。

なおNECでは、今回の成果が、エコなシステムでありながら、リッチコンテンツのやり取りができる情報社会を実現する近距離無線の基本技術になりえるとしており、今後も研究開発を加速していくとしている。