淘汰進む携帯電話メーカー

続いて、ハードウェア側のトレンドにも目を向けてみよう。

携帯電話メーカーは数年前から淘汰が進んでいる。Symbianの出資企業を見れば、一目瞭然だ。いまから10年前に誕生したSymbianは、Nokia、スウェーデンEricsson、Motorola、独Siemens、英Psionが集まって、Psionの「EPOC」をベースに携帯電話OSとして標準化すべく設立された。

Ericssonはその3年後の2001年に、ソニーと合弁会社を作る。Sony Ericssonだ。Motorolaは現在でも2位のベンダーだが、携帯電話部門の弱体化が指摘されている。同社は携帯電話部門を分社化する方針で再編成を進めているところだ。Siemensは2005年に携帯電話部門を台湾のBenQに売却、BenQ Siemensというブランドを打ち出したが、その後、欧州市場から撤退している。

Nokiaのシェアは、ここ数年30%台を推移していたが、昨年第4四半期に4割の大台に到達。iPhoneやBlackberryなどの新しい携帯電話は、Nokia以外の既存携帯電話メーカーのシェアを食い、Nokiaは欧州でハイエンドを、新興国で量産端末を増やしてシェアを伸ばした。

23日の時点で、Symbianの出資企業と比率は、Nokiaが47.9%、Ericssonが15.6%、Sony Ericssonが13.1%、パナソニックが10.5%、Siemensが8.4%、韓Samsung Electronicsが4.5%。このうち、パナソニックとSiemensは、これまでの経緯から出資しているに過ぎない。共同出資とはいいながらも、すでにSymbianの出資企業の間でNokiaの影響力は大きくなっていたのだ。参考までに、現在のSymbianライセンシーは、Nokia、Sony Ericsson、Motorola、Samsung、シャープなど12社となっている。

Symbian Foundation、成功のかぎは?

激動するモバイルプラットフォーム市場で、Symbian Foudationの勝算はどのくらいだろうか?

Symbian FoundationはSymbianベースのモバイルプラットフォームを支援するものだ。プラットフォームの開発、ロードマップなどの管理を行っていく。オープン化することでイノベーションを支える、とNokiaは説明している。Symbian、S60、UIQ、MOAPという現在最も高度で高いシェアを持つ技術が集まったプラットフォームは、懐が深く、信頼性の高いソフトウェアとなりそうだ。実際、24日のプレス発表会でNokiaのKai Oistamo氏(デバイス担当執行副社長)は、同プラットフォームについて「実証済み、オープン」という点を強調している。

Symbianの上に3つのUIがのったプラットフォームには、アプリケーションスイート、ランタイム、UIフレームワーク、ミドルウェア、OS、ツール/SDKが含まれる。各社はその上で差別化を行うことになる。Symbian C++、POSIX C、C++、Python、WebKitベースのWebランタイムなどをサポートする。このほか、Java、Adobe FlashLite、Microsoft Silverlightなどの商用開発環境もサポートする計画という。

Nokiaは先日、ノルウェーTrolltechの買収を完了したところだが、Trolltechの組み込みLinux技術がSymbian Foudationにどのように関係するのかも気になるところだ。

プラットフォームの登場には少なくとも1年を要するが、関係者によると「Symbian OS 9」や「S60 3rd Edition」など既存の技術と互換性があるため、投資を無駄にすることなく、いまから開発を始められるという。

プレス発表会では、Nokia、Symbian、Sony Ericsson、Motorolaの4人がプレゼンを行うなど、Nokiaの一社支配のイメージを薄くしようとしていたようだが、Nokiaが所有するSymbianを支援する理由はなにか? 現時点では不明確だといえる。

Symbian Foundationには、端末ベンダー、通信事業者、ハードウェアベンダーが参加しているが、多くの企業が他の団体にも参加している。たとえば、AT&T、SamsungなどSymbian Foundationの創業メンバーの多くがLiMO Foundationに参加している。NTTドコモ、Motorola、LG、Samsung、TIはAndroidを支援するOHAにも参加しており、コミットが図れない。

たとえばUIの統合はデリケートな部分だろう。コンバージド端末で半分の4~5割のシェアを持つと主張するS60の強さが目立つが、UIQとMOAPとどのようにバランスをとっていくのか。UIQはもともとSymbianの完全子会社だったのを2006年11月にSony Ericssonが買収、2007年秋にはMotorolaが出資参加し、これからというところだった。Sony EricssonはUIQ買収当時、今後人員を増やし、開発を強化していくとしていたが、Symbian Foundationの発表と同時に人員削減を伝えるニュースが流れている。

もう1つが、NokiaはSymbianとS60をオープンにすることで、ビジネスモデルの変化を迫られる。その点も、現時点ではまだ見えない。

Symbian Foundationで最初の課題は、開発者コミュニティだろう。SymbianとNokiaによると、Symbian開発者は現在約400万人おり、1万以上の商用ネイティブアプリケーションが開発されたという。

Symbianは最初の1億台を出荷するのに8年を要した。次の1億台は、わずか2年以内で達成した。携帯電話市場が拡大していることはいうまでもなく、激動の時代ははじまったばかり。3億台となる次の1億台までどのぐらい時間がかかるのか、その間どんな変化が起こっているのか――なかなか予想し難い。