Google、LiMO、そしてApple

ここで、この1年の携帯電話業界の流れを見てみよう。

Symbian Foundationから連想できるのが、米Googleが2007年11月に発表した「Android」と「Open Handset Alliance (OHA)」だ。Androidは、Googleが開発を支援するオープンソースの携帯電話向けプラットフォームで、OHAはAndroidを支援する企業団体となる。

Androidはまだ搭載した製品が登場しておらず、可能性は未知数。だが、バックにGoogleがついていることもあり、影響力のあるプラットフォームになると予想されている。

オープンソースのモバイルプラットフォームとしてはこのほか、業界団体として開発を進めている「LiMO Foundation」がある。これまで、できては消えていったモバイルLinuxグループとは異なり、LiMOは4月にバージョン1をリリース。年内にLiMOベースの携帯電話が登場するといわれている。

プロプライエタリだが、無視できないのが米Appleだ。昨年米国で爆発的ヒットを収めた「iPhone」、7月には3G対応版「iPhone 3G」が登場する。気になるのが、AppleがiPhone 3Gでとった戦略変更だ。

ポイントは2つある。1つ目は、通信事業者だ。Appleは第1世代では各国に通信事業者1社と独占的に契約するというビジネスモデルを採ったが、第2世代では米国や欧州の一部の国を除き、複数の通信事業者が提供することになった。さらには、3G版の価格は199ドル。敷居がぐっと低くなった。

2つ目は、3月にAppleが発表した最新のiPhone向けOS「iPhone 2.0」とSDK、それにアプリケーション版iTunesこと「App Store」だ。iPhoneでネイティブに動くアプリケーションが、iTunesの感覚でシンプルに購入できるという仕組みをAppleは用意しようとしている。ハードウェア、ソフトウェアを1社で提供するAppleだからできる中央集権的なアプローチだ。このアプリケーション配信モデルは、これまで携帯電話業界を率いてきたと自負しているNokiaやSymbianの目には斬新に映ったのではないか。

AndroidとiPhoneは、それぞれまったく違う分野からの携帯電話市場参入となり、それぞれの強みとアイディアとをしたがえてモバイル市場で戦う。これまでのスマートフォン市場は、Symbianと米Microsoftの「Windows Mobile」が戦ってきたが、Linux/オープンソースが形を変えて2社に挑み、Appleはコンピュータ/家電のアプローチで挑む、という構図ができつつある。

携帯電話に占めるNokiaのシェアは4割。文字通り王者だ。だが、Nokiaはこの1年、主に買収を通して着々とサービス企業を強化してきた。音楽、地図、ゲーム、SNSなどインターネットサービスを集めた「Ovi」等のサービス、そしてS60のソフトウェアは、同社にとって現在、最も重要度が高い事業となっている。実際、今年5月、同社CIOのJohn Clarke氏はドイツ・ベルリンで、「Nokiaはサービス企業を目指す」と明言している。

このところの携帯電話業界の変化は、米国市場で起こっている。これまでスマートフォンをはじめ、携帯電話そのものが欧州と日本・韓国より遅れているといわれてきた米国だが、iPhoneの大ヒットで火が付いた。Nokiaは北米でのシェアが低い。米国で起こったiPhoneとAndroidという2つの動きは、米国の経済規模の大きさだけでなく、GoogleとAppleという2社が持つ影響力とマーケティング力からも、Nokiaには無視できない動きだ。

実際、昨年のiPhone登場以来、スマートフォン市場は変化した。米Gartnerによると、2007年第1四半期のSymbianのシェアは63.5%だったのが、2008年第1四半期は57.1%と下げていた。また、英Canalysの調査によると、同期のシェアはSymbianが60%、Linuxが12%、Microsoftが11%、RIM(カナダResearch In Motion、「Blackberry」の製造元)が11%、Appleが4%となっている。

iPhone 3Gのローンチは7月、Android端末の登場は年内といわれている。Nokiaは今、手を打っておく必要があるわけだ。そしてそれには、Symbianをコントロール下に置くしかなかった、と見ることもできそうだ。