華為やZTEも従来の企業と「大同小異」

大手通信機器メーカーである中興通訊(ZTE)や華為などの中国IT業界を代表する大手企業はこれまで、ハイアール(Haier:海爾)集団やハイセンス(Hisense:海信)集団、TCL集団、康佳集団などの大手家電メーカーに比べ、より洗練されており、技術レベルも高く、「多国籍企業に最も近い中国企業」と見なされてきた。先進的な管理制度、手厚い福利厚生を持つといったイメージが当然のごとく信じられてきたのだ。

しかし、華為で起こった連続自殺事件は、こうした従来の外からのイメージが、実は何の根拠も無い単なる幻想であったことを知らしめた。むしろ、中国国内の多くのブログや掲示板で暴露された情報から類推すると、華為はもっとも典型的な"中国企業"で、しばしば労働管理で悪評の立つ一部国内家電メーカーと大同小異である可能性が高い。

まずは、残業をめぐる問題がある。海外企業には厳格な休憩制度があり、従業員は一般的に残業を嫌い、休憩を重視する。しかし華為を初めとする国内メーカーの多くは従業員に残業を強いることが日常茶飯事になっている。

要するに、多くの中国企業は仕事の効率化を達成できず、労働生産性で海外企業とは比較にならない差があるのだ。華為のある従業員が、「私は別に残業に反対はしません。それでもマットレス文化の中身が創業の時代とは変わってしまっていると思います。仕事量は多くなる一方なのに、能率の方はさほど引き上げられていないからです」と指摘する。

「華為=高給」という図式は既に過去のもの

従業員の給与問題でも、かなりの矛盾を抱えているようだ。中国きっての一流ITメーカーである華為だが、一般に思われているほど給与体系は高くない。いまでは初任給ベースで国内の大手家電メーカーとたいした差がない。

「華為=高給という神話は既に過去のものです。給与で優秀な従業員を定着させようという企業にとって、いまの中国のコスト上昇圧力は耐え難いものになりつつあるのです」と関係者は嘆く。給与の大幅なアップが見込めなくなった原因には、中国国内のコスト上昇と国際競争圧力が関係している。これでは華為もいよいよ「平凡」になる一方である。

官僚主義の問題も、華為にとっては頭の痛い問題だ。企業が大きくなるにつれ、売上げが伸びるなかで、大企業特有ともいうべき官僚主義に直面せざるを得なくなった。華為に限らず、国内の大手企業が抱える共通の課題である。国際化の先頭を走る華為も例外ではなく、深刻な官僚主義の浸食に直面している。大企業病にかかり始めた華為は、かつての活力を取り戻す道を見出すことができるのだろうか。

最後は、人材流失の問題である。中国の一部家電メーカーでは、従業員の離職率が非常に高くなっている。今年の1月1日から施行された新たな労働契約法により、従業員の離職傾向はさらに加速されたと考えられている。

これまでは、主に高額の違約金により従業員の離職を制限していた。従業員の多くは入社後まもなく組織への適応が難しい事を悟り、離職を考える。しかし、人事部門は違約金の算出で天文学的な数字を出し、離職を思いとどまらせてきた。

こうした足かせが、今回の新法登場で事実上無効にされたのだ。企業側は、今後高額の違約金で従業員の自由を制限することができなくなる。高給で有名だったかつての華為なら、一部家電メーカーから流出した人材をある程度囲い込むことができたはず。だが、現状は華為も人材流失の危機に見舞われているという。