労働期間契約の短縮化が招いた深刻な事態

労働契約法は、労働者と企業の関係をより平等なものにすることを理想としている。だが上述のとおり、労働者がどれだけ法律を理解し、法律に基づいて企業に権利行使を行うことができるか、まだまだ予断は許さない。だが、そうした状況が予測されてもなお、新法の施行は画期的な意義がある。

高度経済成長の陰で、従来の労働契約制度施行から10数年もたつのに、中国の労使関係はいまだに多くの問題を抱えている。労働契約期間の短縮化は、企業に熟練技術者の不足という深刻なアキレス腱を抱えさせ、いつ解雇されるかと疑心暗鬼になった従業員が、転職を短期間で繰り返すという状況が生まれている。

使用者側と労働者側の相互不信は中国社会にとって当たり前の状態となり、企業側が試用期間を濫用したり、派遣労働者を多く採用することで社会保険の負担を逃れようとしたりするなど、深刻な事態を招いている。

新法の履行はIT業界にとってこそプラス

これらの事態は、現政権が掲げる「和諧社会(各社会階層の調和のとれた社会)」の建設を妨げ、中国企業の長期的な成長戦略にも影を落とすものである。労働契約法が、すさみきった中国の労使関係を、長期安定雇用の価値をお互いに見出す方向に進めることができれば、労使双方に思わぬプラス価値が現れる可能性もある。

労働契約法が目指す長期安定雇用は、実のところIT企業にとってこそ大きなメリットがある。企業は思い切った教育投資で従業員の質を高め、成長を目指すことができるし、従業員も企業への帰属意識が高まることが期待できるからである。

イノベーションこそ事業発展の生命線であるIT企業にとって、最も肝心なことは、技術のある中堅人材を定着させることにある。固定期間のない労働契約によって、従業員が安心して長期間にわたって仕事に集中してくれれば、企業にとっては「百利もあって一害もない」。

今後労働契約法がどのように運用され、どれだけ実効性を持つかが、注目されるゆえんである。