北海道新幹線がついに開業する。新青森~新函館北斗間の約149kmを約1時間で結ぶ。函館周辺では開業に向けて期待が高まっているようだ。ただし、北海道新幹線のゴール(終点)は新函館北斗駅ではない。札幌駅まで建設工事が始まり、2031年3月の開業目標である。しかし、札幌駅も北海道新幹線の終点ではない。計画上の終点はもっと先、旭川駅だ。
北海道新幹線の計画から着工、開業までの経緯をなぞってみよう。1964年に東海道新幹線が開業し、営業面でも大成功を収めた。そこで「全国に新幹線を」という気運が高まった。政府は1970年、「全国新幹線鉄道整備法」を制定した。この法律は新幹線の計画から着工までの手順を定めている。
「全国新幹線鉄道整備法」が定めた「新幹線の着工までの手順」は次の通りだ。
(1) 国土交通大臣が路線を決定する
第四条 国土交通大臣は、鉄道輸送の需要の動向、国土開発の重点的な方向その他新幹線鉄道の効果的な整備を図るため必要な事項を考慮し、政令で定めるところにより、建設を開始すべき新幹線鉄道の路線(以下「建設線」という。)を定める基本計画(以下「基本計画」という。)を決定しなければならない。
(2) 国土交通大臣が基本計画の建設線の調査を指示する
第五条 国土交通大臣は、前条の規定により基本計画を決定したときは、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「機構」という。)その他の法人であつて国土交通大臣の指名するものに対し、建設線の建設に関し必要な調査を行うべきことを指示することができる。基本計画を変更したときも、同様とする。
(3) 国土交通大臣が整備計画を決定して、建設を指示する
第七条 国土交通大臣は、第五条第一項の調査の結果に基づき、政令で定めるところにより、基本計画で定められた建設線の建設に関する整備計画(以下「整備計画」という。)を決定しなければならない。
第八条 国土交通大臣は、前条の規定により整備計画を決定したときは、建設主体に対し、整備計画に基づいて当該建設線の建設を行うべきことを指示しなければならない。整備計画を変更したときも、同様とする。
この手順で新幹線路線の建設が始まる。ただし、国土交通大臣(政府)が勝手に路線を発案して建設できるわけではない。それは第七条の2に定められている。
第七条の2 国土交通大臣は、前項の規定により整備計画を決定しようとするときは、あらかじめ、営業主体及び建設主体(機構を除く。)に協議し、それぞれの同意を得なければならない。整備計画を変更しようとするときも、同様とする。
つまり、営業主体となるJR各社と、建設主体が独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構ではない場合は、その法人の同意を得なくてはいけない。
1973年の計画変更で旭川市へ延長された
北海道新幹線の場合は、国土交通大臣が第四条にもとづいて基本計画を定めた。最初の基本計画では、「青森市から札幌市まで。途中の経由地は函館市付近、小樽市付近」だ。この段階ではかなり大まかに都市名を示しただけである。そして、終点は札幌市になっている。1973年には、第七条にもとづいた「整備計画」まで進んだ。
しかし、第四条に示した「基本計画」は、1973年11月に当時の運輸省(現在の国土交通省)から「昭和48年告示第465号」が公示されて変更となった。起点は青森県青森市、終点は北海道旭川市。主要な経由地は函館市付近、札幌市となった。この計画が変更されず、現在も有効になっているため、北海道新幹線の「計画上の終点」は旭川市となっている。ただし、札幌市までだった整備計画は旭川へ延長されていない。
この状態のまま、2004年に青森市から函館市付近までを「2005年度に着工」と決まった。2012年には函館市付近から札幌市までの区間を着工された。ただし、札幌市から旭川市までは着工のめどが立っていない。現在はこの状態で、新函館北斗駅までの開業を迎える。
他にもある「基本計画」路線
北海道新幹線の基本計画で未着工の区間は、札幌~旭川間の他にもうひとつある。長万部町から室蘭市を経由して札幌市に至る「北海道南回り新幹線」だ。このルートは、北海道新幹線の構想段階からあったようで、基本計画が旭川市まで延長され、経由地から小樽市が外れたときに、対案としても検討されたようだ。
しかし、現在の特急「北斗」と似た「南回りルート」は、距離も所要時間も長い上に、札幌駅に西から進入する形になって、旭川駅へ延伸するとスイッチバックとなってしまうため、「昭和48年告示第465号」の基本計画には採用されなかった。ただし、同日、「昭和48年告示第466号」として基本計画に盛り込まれている。
「全国新幹線鉄道整備法第四条」による基本計画に盛り込まれなかった路線もある。構想段階で立ち消えとなったルートといえるだろう。1969年に閣議決定された「新全国総合開発計画」には、「新幹線鉄道を札幌から道北まで延長して, 北海道縦貫新幹線鉄道として整備するとともに, 道央から道東に至る北海道横断新幹線鉄道の建設を図る」と示されている。
具体的には北海道縦貫新幹線が旭川から稚内までと旭川から網走まで、北海道横断新幹線が札幌から釧路までだった。これらの路線は全国新幹線鉄道整備法による計画路線には指定されなかった。すべて実現すると、北海道のほとんどの幹線は標準軌に改軌されたも同然だ。もっとも、これらは景気の良い時代に考えられた大風呂敷といえそうだ。