「あった」「なかった」の論争はいつどこの世界にも存在する。たとえば「幻のソフトドリンク」といわれ、10年ほど前に大論争となった「ファンタ ゴールデンアップル」。日本コカ・コーラ社が「なかった」と公式発表を行い、幻の味を再現した「復刻版」が発売されて話題になったが、それでも「コカ・コーラ本部が知らない地方版として存在した」「復刻版ができたからにはレシピがあったのでは?」とくすぶっていたらしい。
「あった」「なかった」論争は鉄道の世界にもある。そのひとつが、2階建て新幹線車両を使った長野新幹線「Maxあさま」だ。
結論からいえば、「Maxあさま」は実在した。2階建て新幹線車両E4系を使用し、2001年7月から2003年9月までの約2年間、おもに夏季の多客期に運行されていた。だが、運行日数が少なかった上に、軽井沢駅発の上り列車しか設定されていなかった。
長野新幹線といえば、高崎駅から長野駅までを結ぶフル規格の新幹線。2014年度中に長野駅から金沢駅まで延伸され、当初の呼称「北陸新幹線」となる予定だが、長野県からは「長野新幹線の名前を残してほしい」との声もあるとか。そんな長野新幹線で活躍する車両はE2系0番台。長野新幹線は勾配が多く、さらに軽井沢~佐久平間で電力周波数が変わることから、これらの条件を満たす車両として製造された。
2階建ての新幹線車両E4系も、全26編成中4編成が長野新幹線への乗入れに対応しているとのこと。この4編成のうち2編成には勾配区間用のブレーキが装備され、周波数変換にも対応しているので、東京~長野間で走行可能。残りの2編成は周波数変換には対応していないものの、勾配区間用のブレーキを装備しており、東京~軽井沢間で走行可能だ。
2階建て車両E4系の活躍の場は徐々に狭まり…
こうして、E4系を使用する「Maxあさま」が実現したが、前述の通り軽井沢駅発の上り列車1本だけしかなく、下りの「Maxあさま」はなかった。その理由は、「満席になった場合の重量では、長野新幹線の勾配を登れない」と判断されたためだという。
E4系のモーター出力は新幹線車両としては最大の420kWで、E2系よりパワフルだ。そのパワーをもってしても、2階建ての大型車体と、座席数の多さによる定員増で重量が増してしまい、東京から軽井沢・長野方面へ向かう列車を設定できなかったようだ。でも上り列車なら、勾配区間用のブレーキのおかげで満席でも長野新幹線を走行可能。だからダイヤが空いている時間帯に、わざわざ軽井沢駅まで回送列車を走らせ、折り返しの上り列車だけ運行したというわけだ。ちょっともったいない……。
「Maxあさま」が運転されなくなって10年。どうやら今後も、E4系の長野新幹線への乗入れはあまり期待できなさそうだ。E2系の増備もあるし、北陸新幹線の開業と同時に新型車両E7系・W7系も導入される。E4系は東北新幹線からも引退しており、E5系などの増備にともない、東北新幹線の今後の高速化に対応できないことも理由のひとつ。いまやE4系に残された活躍の場は上越新幹線のみで、2016年頃に全廃という報道もあった。
独特のユーモラスな顔を持つE4系。2階席は眺望が良く、1階席も「なぜか落ち着く」とリピーターが多かったらしいが、刻々とお別れの時期が近づいているかもしれない。