できることなら避けて通りたい「徹夜」。夜勤必須の職種は少ないクリエイティブ界隈ですが、その仕事の性質上、予期せぬ徹夜の危険にさらされがち。それが複数人で手がけるプロジェクトになれば、自分ひとりでコントロールするのは困難です。

徹夜は締め切りを守るための「最後の手段」で、ややもすると「頑張った!」感に酔ってしまいがちですが、本来眠るはずの時間に働くことで、クリエイターの体に大きな負荷がかかってしまいます。しかし、やむなく徹夜する必要に迫られてしまった時は、どうやって乗り切ったらいいのでしょうか。

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第2回は、クリエイターなら1度は経験がある?徹夜をした「そのあと」のお話です。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza

徹夜明けの疲れを解消するたったひとつの方法

仮に、あなたがとにかく締め切りに間に合うように、作品や成果物を寝ないで仕上げたとしましょう。原稿やレイアウト、映像、コード、仕様書、取説、楽譜……人によって作るモノはさまざまですが、締め切りのために睡眠を犠牲にした経験、これを読んでくださっている方なら覚えがあるのでは?

締め切りに間に合って、めでたしめでたし……と思いがちですが、問題はここから。徹夜したということは、あなたの体に疲労が残っているということです。

患者さんに、「徹夜しました、疲れてます、でもまだ仕事があります。何とかなりませんか?」と聞かれることがあります。何とかなる「魔法」があればお教えしたいところですが、東洋医学では「暦を作る仕事の人は長生きしない」と言ったりします。古代、暦を作るには天体観測が必要でした。夜間眠らない仕事=短命 とされていたのです。

寝なかった。疲れている。その事実を解消する方法はただ一つ。睡眠です。もうね、これは動かすことのできない事実なのです。

世間には、どうしても夜間勤務が減らせない仕事があります。それは、人の命に関わる仕事。医師・看護士・介護士などなど。いくつもの医療関係の仕事がそれにあたります。そのほかにも、インフラ系や運送関係など、どうしても夜勤が必要で、交代で夜間の業務に携わっていらっしゃる方が大勢存在します。

だがしかし、そこには含まれないクリエイター界隈、エンターテイメント産業にも、徹夜はたいへん多いのです。そして問いたい。クリエイター界隈、何とか寝る時間を確保できないものか。

……まあ、難しいですよね。夫がゲーム業界の人間ですので、理解しております。あっちこっちのひずみが最後に! 現場に! ねっ!

徹夜の疲れをやりすごす「眠り方」

そこで、寝ないで仕事をした疲労を回復するための「眠り方」をお伝えしたいと思います。まず、寝ることが第一なのですが、そのまま翌日も夜勤が続くわけじゃない場合……、「普段の睡眠時間」をずらして眠るのはオススメできません。

明け方に仕事が終わったからといって午前中から寝てしまうと、体内の自律神経の働きを壊してしまいます。1日限りの徹夜だったら、そのまま通常業務をこなして、夜(というか日没後)にさっさと寝てしまうよう仕向けたほうが得策です。こうすることで体内時計が狂わずに済み、徹夜の疲れを数日引っ張ることが少なくなります。

また、短時間睡眠でぎっちり仕事をこなしていらっしゃる方がまれにいらっしゃいますが、もともと生まれつき睡眠時間が短くて大丈夫な方と、ロングスリーパーと呼ばれる睡眠時間が長くなければダメな方とが存在しており、睡眠時間の適量はひとそれぞれ。「ショートスリーパーになって仕事の効率アップ!」という内容の「ライフハック」情報がネットには多くありますが、体質を無視してムリにショートスリーパーになろうとしても、単なる寝不足を引き起こすだけだったりします。

恒常的な寝不足は様々な疾患のリスクを高めることが調査で分かっています。また、寝不足は作業効率を下げ、ミスを増やし、体も蝕んでいきます。しっかり眠って効率よく、健康に仕事をしましょうね。

最後に。徹夜中は眠気を我慢せず、30分程度の仮眠をとるのが賢い養生です。人によってちょうどいい仮眠の量は違っていますので、試行錯誤してみましょう。

「絶対起きられなくなると思う!」という方は、緑茶やコーヒーを一杯飲んでから目覚ましをかけて寝ます。カフェインの作用でダルさが残らず起きられるようになりますよ。第1回でお話したこととも少しつながりますが、カフェインはめったやたらに濫用せず、こんな風に賢く使いましょう。