トヨタ自動車が新たなクルマづくりの技術として掲げた「TNGA」。その一角をなす新世代ドライブトレーンが発表された。さまざまな最新技術を投入し、10%の最高出力向上、20%の燃費向上を果たすという。すでに極限的にまで進化している現在のドライブトレーンをさらにここまで性能向上させる技術とはどんなものなのだろうか。

トヨタが新型の直列4気筒2.5リットル直噴ガソリンエンジンを開発。「さまざまなエネルギーロスを少なくして熱効率を向上させるとともに高出力を両立している」という

その前に、おさらいとして「TNGA」を説明しておこう。「TNGA」は「Toyota New Global Architecture」を意味する。さまざまな車種に共通して使用されるシャシーやサスペンションなどの基本コンポーネントを「プラットフォーム」と呼ぶが、「TNGA」は「プラットフォーム」という言葉を使わず「アーキテクチャー」と言い換えた。それは「TNGA」の意味するところが「プラットフォーム」の範疇よりも広いからであるようだ。

今回発表されたように、「TNGA」にはドライブトレーン、つまりエンジンやトランスミッションを含む。さらにいえば、トヨタは「TNGA」を「『いいクルマづくり』の構造改革」としている。いくつかのパーツをまとめて「TNGA」と呼ぶということではなくて、幅広い新世代技術の総称であり、別の見方をすれば「トヨタはこれから革新的な技術にどんどんチャレンジしていきますよ」という決意表明、そのキーワードが「TNGA」だともいえるだろう。

さて、その「TNGA」のひとつの形として発表された新世代パワートレーン群。前述のように飛躍的な性能向上を果たしているという。しかし、クルマのパワートレーンは世界中のメーカーが100年にわたって開発、熟成してきたメカニズムであり、現在でも技術的な極致に達している。そこからさらに劇的な高出力化、省燃費化を達成することはきわめて難しいはずだ。それを実現した技術とはどんなものだろう。

高速燃焼で熱効率をアップ

発表されたパワートレーンのうち、2.5リットル直列4気筒直噴エンジンを例に取ると、トヨタの技術説明で何度も出てきた言葉、つまりキーワードは「熱効率」と「高速燃焼」だ。熱効率とは、燃料を燃やすことで発生したエネルギーのうち、どのくらいの割合を動力として有効活用しているかということ。たとえば熱効率が50%だとすれば、発生したエネルギーのうち半分をクルマを走らせるための力として使い、残り半分は熱や振動、騒音などの形で無駄に捨てていることになる。

熱効率を高めることは、エンジンの根本部分を改良する困難な作業だが、その効果は大きい。なぜなら、最高出力などドライバビリティを犠牲にせずに、燃費を劇的に改善することができるからだ。自動車用ガソリンエンジンの熱効率は長い間30%台で、10年くらい前まで、40%に乗せるのは不可能とされてきた。それが、トヨタの新しいエンジンではガソリンエンジン車用で40%、ハイブリッド車用で41%を達成しているという。

では、どうやって熱効率を上げたのか、その秘密はもうひとつのキーワード「急速燃焼」にある。エンジンは燃料が燃焼によって爆発的に膨張する力でピストンを動かし、動力に変える。このとき、燃焼速度が速いほうが、より効率的に燃焼のエネルギーを動力に変換することができる。もし燃焼速度が非常に遅いと、ピストンが一番下まで下がって上昇に転じてもまだ燃焼が持続していることになり、燃焼が無駄になるどころか、ピストンの動きを停めようとする逆効果になってしまう。そこまで極端でなくとも、ピストンがなるべく高い位置にあるうちに燃焼が完了したほうが効率は高くなる。

トヨタの新エンジンでは、インテークポートの形状を工夫することでタンブルを発生させ、燃焼速度を上げている。タンブルとは、簡単にいえば渦巻きのこと。インテークバルブから燃焼室内に吸い込まれた混合気がぐるぐると渦を巻いて流れるように、特殊な形状のインテークポートを開発した。渦を巻く混合気に点火プラグで火を着けると、その気流によって隅々まですばやく燃焼が広がるのだ。

もちろん、トヨタのエンジンに投入された新技術は他にもたくさんある。燃焼速度を上げるための工夫はタンブルだけではないし、熱効率を上げるための工夫も燃焼速度の1点だけではない。しかし、燃焼速度を上げる技術がキーテクノロジーとなっていることも間違いない。トヨタではタンブルを発生させるインポート形状などをモジュラー化して多くのエンジンに採用するとしている。これによって、開発費を低減しながら、多くのエンジンの性能を向上させることができるのだ。

トヨタが実施したパワートレーン技術説明会の様子

ところで、今回のトヨタのエンジンを見て、マツダの「SKYACTIV-G」とどちらが優れているのか、どう違うのか、と思った人も多いかもしれない。じつは、燃焼速度を上げることで熱効率を向上させ、出力と燃費を両立しているのはどちらのエンジンも同じだ。ただ、マツダでは燃焼速度を上げる策として、圧縮比を非常に高くする方法を採っている。圧縮比を上げると、混合気が急激に圧縮されることで非常に高温になり、点火したときに急速に燃えるのだ。

一方、トヨタのエンジンでは、前述のようにタンブルによって燃焼速度を上げている。もちろん圧縮比もかなり高くしていることは間違いないが、じつは、トヨタのエンジンはタンブルを強化するためにバルブ挟み角を従来より大きくしている。そのため、圧縮比はスカイアクティブほど高くないと思われる。

同じガソリンを燃料としたエンジンを開発する以上、マツダでもトヨタでも大筋の手法が同じになるのは当然のことだ。しかし、その最終的なアプローチにそれぞれの個性が出たといえるだろう。

走る楽しさを追求、さらなるシェア拡大を図る?

これまで、トヨタの環境技術はハイブリッドや燃料電池など、派手で話題性の高いものが多かったが、今回発表されたパワートレーンはそれと対照的だ。非常に地味な努力の積み重ねによって、総合的に大きな効果を発揮するメカニズムであり、ぱっと目を引くような派手さはない。しかし、だからこそトヨタの本気が感じられるともいえる。

今回の発表では、ガソリンエンジンだけでなくそれと組み合わせるトランスミッション、さらにハイブリッドシステムも紹介された。しかし、ハイブリッドシステムの発表に取られた時間は少なめであり、全体としてはガソリンエンジンが主役の発表だった印象が強い。また、発表では環境性能の追求と並んで、いや、むしろそれ以上に力を入れて、加速性能など走りの良さを訴求することに力点が置かれていた感がある。

トヨタはハイブリッドや燃料電池車で業界の先頭を走っているが、ことガソリンエンジンにおいては、このところあまり印象的なものがない。少なくとも一般ユーザーにとって、優れたガソリンエンジンといえばホンダやマツダ、あるいはスバルや日産を思い浮かべるだろう。トヨタ自身、スポーツカーの看板モデルである「86」にスバルのエンジンを搭載しているくらいだ。

今回の発表では、次世代ガソリンエンジンでそうした評価を覆し、いまやマツダやスバルのお家芸のようになった「走る楽しさ」の面でも失地回復を狙う意気込みが見える。その目論見通りとなるか。新世代ドライブトレーンの市販車への採用を心待ちにしたい。