ポストムーアのデバイス展望について講演する黒田教授

東京工業大学の学術国際情報センターと東京大学の情報基盤センターの共催で、「ポストムーアに向けた計算機科学・計算科学の新展開」と題するシンポジウムが開催された。そこで、慶應義塾大学の黒田忠広教授がポストムーアのデバイス展望と題する招待講演を行った。

ムーアの法則は、なぜ止まってしまうのか?

良く知られているように、ムーアの法則は物理法則ではなく、半導体業界が、2年後にはトランジスタなどのサイズを0.7倍にして、同じ面積に作れるトランジスタ数を倍増しようという目標を立て、それを実現しようと努力することで成り立ってきた。

なぜ、トランジスタを小さくするのに努力するのかというと、トランジスタを倍増しても製造コストはほぼ同じで、トランジスタの単価を半分にできるからである。また、デナードスケーリングで電源電圧もサイズに比例して縮小すれば、トランジスタの性能が縮小率に逆比例して高まる。さらに、2倍のトランジスタを1.4倍の速度で動作させても消費電力は増えないと良いことずくめだからである。

これを逆に言うと、微細化によって性能・コスト比を改善できなくなると、微細化の開発に大金をつぎ込み、努力する人はいなくなり、ムーアの法則は終わってしまうことになる。

半導体の製造コストは、微細なパターンをウェハに露光して焼き付けるリソグラフィのコストが大きな部分を占めている。しかし、16nmプロセス世代のLSIではパターンが微細すぎて隣接パターンを露光する光が干渉してしまい、うまく露光することができなくなっている。このため、1回目の露光では1、3、5、7番の線というように1本置きの線を露光し、次に1回目に露光した線の間に入る2、4、6、8番の線を2回目に露光する2重露光という方法が使われる。このようにすれば、1回の露光でみれば線の間隔が2倍になるので、干渉は抑えられる。しかし、こうなると、1層のパターンの露光に、高価な露光機を複数回使用するので、露光のコストが上がってしまう。すでに、14nmプロセス世代ではもっとも微細な層では3重露光が必要になっており、その他の層でも半分近くが2重露光を必要とするようになっており、トランジスタの単価が上がってきている。

期待の星は波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)を光源とする露光機で、光の波長が短いので、細かいパターンでも1回で露光できるようになる。しかし、EUV露光機は、テスト機は作られているが、量産レベルのマシンができるのは7nm世代とか5nm世代とか言われており、まだ使えない。

露光より深刻な問題は、トランジスタの消費エネルギーが減らず、発熱の点で集積度が制限されてしまうことである。

微細化で性能・コスト比を改善できないと、ムーアの法則は止まってしまう (以下のすべての図の出典は、シンポジウムにおける黒田教授の講演スライド)

CMOSは非常に理想的な回路形式であり、動作に伴って消費するエネルギーは、負荷となる容量を充放電するエネルギーだけである。次の図に示すように、スイッチに伴うエネルギー消費はCV2であり、電力はfαCV2であり、電源電圧Vの2乗に比例する。つまり、省電力、省エネルギーには低電圧化が重要である。

電力、エネルギーはV2に比例するので低電力と省エネルギーの実現には低電圧技術が重要