鉄道ファン、とくにローカル線が好きな者にとって、路線の廃止というのは避けられない問題でしょう。乗客の少ない、ひなびた風情のある路線というのは、その多くが赤字路線なわけで、いつ廃止されるかもしれないという不安を抱えています。

現役時代の三木鉄道の車両ミキ300形(写真左)と三木駅の駅舎(同右)

筆者の住む兵庫県にも、当連載で紹介した阪神国道線・甲子園線をはじめ、尼崎港線や淡路島の路線など、廃止になってしまった路線がたくさんあります。今回から数回にわたり、兵庫県南部、播磨のあたりの廃線跡を取り上げてみたいと思っています。

2008年春、廃止直前の三木鉄道の列車に乗る

兵庫県三木市は金物の町です。昔ながらの「肥後守」をはじめ、金物を扱うところがたくさんあります。ごくごく平均的な郊外の都市で、のどかな田園風景の中を、2008(平成20)年まで三木鉄道の列車が走っていました。三木駅からJR厄神駅まで全長6.6kmを、1両編成(「編成」といっていいのかな?)のかわいらしい列車(「列車」なのかな?)が往復していて、筆者もツーリングで通りかかったときなど、青々とした田んぼの真ん中を走る列車を見ながら、なんともいえず穏やかな気持ちになったものです。

2008年春、この三木鉄道が廃止になるという記事を新聞で見て、これは最後にもう一度見ておかなければ! と思いました。それまで、いつも見るだけだった三木鉄道に、このとき初めて乗ったのです。このときばかりは、いわゆる「葬式鉄」になってしまいました。

まだ水の張っていない田んぼの中を走る三木鉄道の列車。沿線のあぜ道にも、鉄道ファンがいっぱいいました。駅の壁には、地元の小学生が描いたらしい「ありがとう三木鉄道」のポスター。ほぼ何のゆかりもない土地なのに、よそ者である筆者の胸にも、寂寥感とともにこみ上げるものがありました。

2008年春、廃止直前の三木鉄道を撮影した

鉄道がなくなり、見慣れた景色が一気に色あせてしまうというのは、なんと寂しいことか。いや、地元の人々にとっては、「日常の足が消えてしまう」という、もっと現実的で切実な事態。よそから来た者が軽々しい感傷に浸ったところで、それさえ失礼なことなのかも……。そんなことを考えつつ、最初で最後の三木鉄道でのひとときを過ごしました。

当時のまま残る別所駅跡、きれいに整備された三木駅跡

あれから6年。再びあの三木鉄道を訪ねてみることにしました。当時の記憶をたどりながらの廃線探索です。まず、いきなり三木駅を通り過ぎてしまいました。道路から線路跡らしきものを発見したのは、三木駅の2つ手前、別所駅の近くでした。小川を渡る小さな橋りょうが目に入ったのです。

県道から脇道に入っていくと、すでにレールと枕木は撤去され、路盤の上にバラストが乗った状態の線路跡が、田んぼの中を突っ切って延びていました。線路沿いを100mほど戻ると別所駅跡で、ホームの前は数十メートルにわたって線路と枕木が残り、駅舎も残されています。駅前の空き地には、真新しい立派な石碑が建っていました。この駅の周囲だけ三木鉄道がまだ生きているような、そんな空気が感じられました。

別所駅跡。駅舎や駅周辺の線路など、ほぼそのままの状態で残されている

高木駅跡から別所方面を眺める

高木駅跡。線路は撤去されたが、ホームが残されていた

整備された三木駅跡

別所駅から東へ。ホームだけの高木駅を過ぎてしばらく行くと、三木鉄道の東の終点、三木駅に着きます。跡地はきれいな公園になっていました。わずかに残った線路跡では、サイクルトロッコも楽しめるようです。駅舎は小さな博物館になっているようですが、残念なことにこの日はお休みでした。

それにしても、この駅舎と、隣にある休憩所の屋根は見覚えがあるんですが、どうも位置関係が違うような気がします。

駅舎の隣にできた物品販売所で、食事もできるようです。ここで遅い昼食を取ることにして、ついでにお店の人に聞いてみると、やっぱり駅舎と休憩所の屋根(元は駐輪場の屋根だったそうです)は、もともとあった位置からかなり移動したとのことでした。三木駅跡はさっき見た別所駅よりもきれいになって、お金をかけて整備されたようでした。

ただし、ここにはもう三木鉄道が現役だった頃のにおいは残っていないような気がしました。別所駅の、つい先日まで使われていたような雰囲気ではなく、なんとなく吹っ切れたような、もはや未練さえ残ってないような……、そんな印象を持ってしまったのです。

JR厄神駅。島式ホームの片側が三木鉄道のホームだった

JR加古川線の電車(103系)が厄神駅を発車していく

周囲が暗くなる中、厄神駅付近でも三木鉄道の線路跡を見つけた

三木鉄道の起点だった厄神駅にも行きました。ここは現役のJR加古川線の駅です。改造された103系や、新しい125系が元気に走っています。ホームは2本で3面あり、島式ホームの外側がかつて三木鉄道のホームでした。いまでは線路も枕木も取り外され、ホームだけ残っています。「列車の来ないホーム、どこにも行けない旅人」、ふとそんなフレーズが浮かんできたのは、雨の夕方、そろそろ家に帰りたくなってきた筆者の心細さでしょうか?

駅の北東には、線路のない路盤が三木市のほうへ向かって延びていて、その先は夕方の薄闇に溶け込んでいました。

三木鉄道の駅跡とその周辺の風景

別所駅跡とその周辺

別所駅跡とその周辺

別所駅跡とその周辺

高木駅跡

高木駅跡

三木駅跡