いまや当たり前のように家庭に存在する各家電製品にも歴史があります。本連載では、誰もが知っている家電製品の初代や初期モデルなどを紹介していきたいと思います。

戦後の廃材から生まれた元祖マッサージチェア

電動マッサージチェア第1号「フジ自動マッサージ機」

銭湯の定番と言えば、牛乳瓶と並び、コイン式の電動マッサージチェアもそのひとつ。いまや銭湯自体が街中から姿を消してしまいましたが、今でも温泉施設などに行くと、思いのほかハイテクなマッサージチェアがあったりします。その原点である量産型のマッサージチェアが日本で初めて登場したのは1954(昭和29)年のことです。

開発したのは、現在も変わらずマッサージチェアの販売を続けている、フジ医療器の創業者である故・藤本信夫氏。もともとは大阪で銭湯向けにたわしなどを販売していた商人だったそうですが、「人々が集い、一日の疲れを癒す銭湯の脱衣所で何かできないだろうか」と考え出されたのがマッサージチェアだったそうです。

とはいえ、戦後間もない当時、ゴミの山の中から廃材を掻き集め、組み合わせては試作を繰り返して完成させたとのことです。例えば、もみ玉には野球の軟式ボールを、もみ玉の高さを調節するための駆動部分は自転車のチェーンや軽自動車のハンドルが再利用されました。

もみ玉は野球の軟式ボールで作成

こうして作り出されたマッサージチェアの販売価格は1台7万円。当時、大卒の国家公務員の初任給が8700円だった時代であったことを思うと、かなりの高級品だったことが想像できます。

とはいえ家庭用に売り出したわけではなく、初期の段階では業務用として銭湯に無料で設置してもらい、お客がコインを投入すれば利用できるかたちで展開。創業者と3人の従業員とでリヤカーにマッサージ器を積み込み、銭湯の煙突を目印に営業活動を行いました。

一般客がマッサージチェアを体感している様子(1954年ごろ)

銭湯や温泉向けに普及したマッサージチェアの生産ライン(1965年ごろ)

10円で3分マッサージが受けられるという便利さと物珍しさから人気を博し、瞬く間に全国へ広がっていき、1965年に医療機器メーカーの「株式会社フジ医療器」として出発する礎となったとのことです。

最近のハイテクかつスタイリッシュなマッサージチェアの進化には目を見張るものがありますが、その原点が廃材から生まれたものであるということが何とも感慨深いですね。また、近年は銭湯文化そのものがが衰退の一途ですが、それと同時に失われゆく大衆文化に哀愁を覚える世代も多いのではないでしょうか。

取材協力・写真提供:フジ医療器