日常的に車を利用する方は、2006年の道路交通法改正で違法駐車の取締りが強化されたことは記憶に新しいだろう。民間の駐車監視員を動員し、駐車違反は発見次第に切符を切る情け無用の取締りは、とりわけ配達を生業とするプロのドライバーを苦しめることになった。

この法改正を好機ととらえ多くの企業が駐車場ビジネスに参入し、全国の休遊地は次々とコインパーキングに生まれ変わった。多くのブランドがひしめく駐車場業界にあって、1997年創業より順調に業績を伸ばしているパラカは、駐車場候補地の獲得を効率化するために、iPad miniと自社開発した地図アプリを活用するユニークな営業活動を導入している。

iPad miniから自社開発した地図アプリを活用する

足で稼ぐ営業スタイルの課題は属人的な情報管理

営業部次長 兼 営業一課課長 中村和正氏

時間貸しの駐車場ビジネスは、駐車場となりうる土地(空き地、月極駐車場、解体中の建物、空き家、空きビルなど)をピックアップし、その土地所有者と接触してコインパーキング経営を提案するという流れだが、重要なのは競合他社に先駆けて1件でも多く優良な候補地を見つけることにある。そのため同社では、営業担当者を全国に配置して、日々候補地の発見に多くの労力を投入している。

「調査する地域の地図を用意して現地に入りますが、地図を見ただけでどこに候補地があるかは分かりません。車やレンタル自転車、あるいは徒歩でひたすら現地を見て回り、候補となる土地を見つけたら、蛍光ペンで月極駐車場は何色、更地は何色、などと色分けしていきます。他社のコインパーキングを見つけたら、料金や稼働状況をメモしたり、土地の形状をデジカメで撮影することもあります」と、以前の営業スタイルについて、営業部次長 中村和正氏は述懐した。

営業担当者は1日に20件以上、担当エリアにもよるが、多い者は100件くらいは候補地をピックアップする。まさに"足で稼ぐ"営業スタイルだ。しかし紙ベースの案件管理手法には、いくつかの課題が浮上していた。

管理部 システムアナリスト 中村英之氏

「土地の所有者様と賃貸契約を結び、コインパーキングとして運営を始めた物件については、基幹システムに各種の情報を格納し、稼働率や収益動向といった情報活用はできていたのですが、受注前の営業活動に関する情報管理は属人的な運用となっていて、全社で情報を集約して統計を出すなどの積極的なデータ活用には至っていませんでした」と語るのは、管理部 システムアナリストの中村英之氏だ。

候補地の把握から成約に至る過程で誰がどれだけのコストをかけているのか、それを"見える化"して追跡可能にしたい。

ところが現実には、現地調査に基づき作成する案件管理表は、紙ベースで作成する営業担当者もいれば、パソコンでExcelに入力する営業担当者もいて、各自が扱っている情報はバラバラ。担当エリアの変更や人事異動に際して前任者の活動情報がうまく引き継がれないと、過去に調査済みの土地を重複して調査する無駄が生じてしまう。

「良い物件が見つかったら、その土地の所有者様に接触するために、Webから登記簿謄本を取得する有料サービスを利用していますが、担当変更時に前任者が取得していた登記簿謄本の情報が引き継がれないケースもありました」(中村英之氏)

管理部 システムアナリスト 斉藤巧氏

こうした課題を解決するきっかけとなったのは、情報システム部門が実施した「夢プロジェクト」という企画だった。情報システム部門がどんなことができるのか、一般社員は正しく理解できていないのではないか、との危惧を管理部 システムアナリストの斉藤巧氏は抱えていた。

「要望を出す前に各自が勝手に、これは無理だろうなと、線引きしているかもしれません。そこで『皆の夢を聞かせて』という企画を行ったのです。集まった夢のいろいろな要素を集約した結果、スマートデバイスを活用した営業支援システムの開発プロジェクトが始まりました」(斉藤氏)

地図にさまざまな情報を集約する営業支援システム

営業担当者の業務効率を向上させ、なおかつ各自が属人的に抱えていた成約前の活動状況を情報資産として活用するツールとして、同社がたどり着いた答えは"すべての情報を地図に集約するアプリ"だった。Googleマップをベースに自社開発したアプリは、駐車場候補地を見つけたらアプリの地図上にピンを立て、そこにひもづく形でさまざまな情報を付加していく。例えば、候補地の種別ごとにピンを色分けし、メモやボイスメモ、写真を記録していく。さらに2点間の距離計測や多角形を選択して面積を算出する機能も盛り込まれている。

「以前は各自がデジカメを持って現地の写真を撮影して、帰社後にプリントアウトしていました。ぱっと見て状況が分かるようにと、写真をハサミで切ってトリミングして調査票に貼る、まめな担当者もいました。こうした面倒な作業は今では、iPad miniのカメラを起動して撮影すれば自動的にピン情報とひもづいて保存されます。これは営業担当者にとっては、画期的な業務効率改善でした」(中村和正氏)

iPad miniで開いた営業支援システムの画面。候補地を見つけたら、地図上の現在地にピンを立て、そこに写真やメモ情報を付加する。入力したデータはリアルタイムに本社システムへ送信される

デバイスの選定では、地図を使うのに最適なものという視点で、ノートパソコンからAndroidタブレット、iPad、iPhoneなどあらゆる製品を評価したという。システム設計の当初から、社外から入力した情報を社内の基幹システムに保存して、その情報を社内外からリアルタイムに閲覧できるSFA(Sales Force Automation:ITを使った営業支援システム)とすることを目指した。

「外回りの営業担当者にとっては、基幹システムに保存されている既存の駐車場情報や売上動向などを見たり、土地所有者様への支払額を確認するなど、各種情報を外出先からダイレクトに参照できると候補地の収益を予測できるなど、ツールの活用範囲は大きく広がります。もちろん、新規開拓のためのSFAツールとして、どんどん候補地を見つけて土地所有者様を調べてもらうツールとしても活用してもらいたい。その2つの機能が大事だと考えていました」(中村英之氏)

基幹システムに接続させ、端末側にデータが残らない構成を要件にすると、ダウンロードしたデータが残ってしまうノートパソコンは適さない。また、VPNを使ったセキュリティの確保を必須としたため、機種やOSバージョンごとにVPNソフトを使い分ける必要があるAndroidタブレットも候補から外れた。そこでシステム要件を満たしたプラットフォームとして、iOSを搭載したiPadとiPhoneを検討した。もしiPadが大きくて使いづらいとなればiPhoneで運用するつもりだったので、アプリ開発はiPhoneとiPadの両対応としていたが、開発途中に発売されたiPad miniが過不足ない最適なサイズとして正式採用が決まった。

iPad miniから入力された情報はすべてVPN経由で社内の基幹データベースに保存され、端末に情報は残らない仕様だ。パソコン用に運用されていた既存の基幹システム「ペガサス」から、今回新規開発されたiPad mini用アプリの情報を閲覧できるようにしたことで、全国の営業担当者が入力する情報を社内外を問わずリアルタイムに参照できる環境が整った。

以下は、実際の活用シーンを紹介する動画だ。


営業活動の見える化で現場の競争意識が向上

「日々の営業活動がデータベースに保存されるようになり、担当エリアの変更でも、前任者の活動履歴は残らず引き継げるようになりました。成約前の活動状況がSFAアプリによって全社員に共有されたことで、営業効率は大幅に向上しています」(中村和正氏)

例えば、土地の所有者を探すために登記簿謄本を取得する作業は、以前なら営業担当者が帰社後に地図データを社内の営業支援スタッフに手渡して調査を依頼していた。夕刻にまとめて数十人の営業担当者から渡される地図データを数名の営業支援スタッフが作業するので、連絡先が分かるまでに翌日あるいは翌々日になっていた。急ぐ時には自分で調べるしかない。

iPad miniの導入後は、営業担当者が現地で地図上にピンを立てると、社内の営業支援スタッフがすぐさまピンの位置情報に基づいて登記簿謄本をWebで調べて、該当するピンに対して土地所有者の名前や電話番号などの情報を追加してくれる。もし所有者が現地の近くに住んでいるなら、その日のうちに連絡を入れて訪問することも可能になった。土地所有者への連絡サイクルは半日から1日の時間短縮になっている。

さらに、ピンにひもづけられた情報は、全国の営業担当者の動きはSFAアプリから、リアルタイムで期間や地域、担当者、週別といった切り口でリスト表示できる。

社内システム「ペガサス」からSFAアプリ情報を表示させた画面。指定期間での成績順位が個人名ベースで一覧表示されている(氏名にはボカシを入れてあります)

「若手を中心に、ピンを立てた本数を競い合うモチベーションアップに貢献しています。以前は部署内の管理職が個人の成績を集約してハッパをかけるのが限界でした。今はその日、週、月別の個人成績ランキングが見える化されているので、活動状況を正確に把握できます」(中村和正氏)

案件のクロージングまでカバーするツールを目指す

営業支援ツールとしてiPad miniの運用が始まって半年後、駐車場候補地の成約件数は2割程度向上しているという。今後、運用経験を積めばさらに成果は上がると見込んでいるが、もう一歩踏み込んだツールの機能強化も視野に入っている。

「候補地発掘の個人成績がリアルタイムで分かるようになって、営業担当者は競ってピンを立てるようになりました。それはとても良い変化なのですが、発掘した案件に対して土地所有者様に架電などのフォロー活動をどれだけ行っているのかは、まだ見える化されていません。そこでフォロー活動の記録までSFAアプリに入力できるような機能強化を準備しています」(斉藤氏)

ピンは立てても、一定期間フォロー活動がないと少しずつピンの色があせていき、ある期間を過ぎると自動的に専有権が消滅して、ほかの営業担当者が案件を引き取れる、といったルールを検討中だ。既存のSFAアプリでは、フォロー状況は案件ごとに履歴を検索して調べなくてはならないが、地図と連動させると視覚的に一目瞭然となり、課題を見つけやすくなる。

「これはピンを立てただけで満足する営業担当が出ないようにする仕組み作りです。地図アプリに視覚的な気づきの要素を加えることで、管理職の詳細情報を確認する動きを促進させ、それによってフォロー活動を徹底させたいと考えています」(中村和正氏)

これ以外にも、現在はまだ手書きしている稟議用地図の自動作成で営業の負担軽減を図ったり、土地価格とリンクさせた収支予測の自動化など、さまざまな情報をIT技術で加工して業務改善につなげていくという。「そのための外部情報入力ツールとして、今後もiPad miniを活用していくつもりです」(斉藤氏)。