エアコンなしでも20℃を目指す!

前回の予告通り、「冷やす」にチャレンジしてみました。使用するのはペルチェ素子で、電子冷蔵庫などに使われている部品です。これとスタイロフォーム(断熱材)を使って、エアコン無しの室内(31~2℃)でも生育適温をキープできる育苗BOXを作ります。目標は20℃(!)です。

冷涼性のニンジンは暑さに弱く、苗の半分ぐらいがヤラれてしまいました…

ペルチェ素子は2枚のセラミック板にはさまれた半導体から成り立ち、片面の熱を反対面に移動する電子部品です。一般的なエアコンや冷蔵庫のようにコンプレッサーを使用しない分、騒音や振動が少ないため、ホテルの客室用冷蔵庫にも採用されていると聞きます。また、フロンガスに代表される冷媒も不要なので、専用工具を揃えることなく手軽に扱えるのも有り難いところです。使い方も至ってシンプルで、冷却したい物体と放熱器の間に取り付けるだけ! と言いたいところですが、これは理論上の話。何とかなるだろうと始めたのが運の尽きで、泥沼の実験生活を余儀なくされました……。

ペルチェ素子の内部に整然と並んだ半導体。結露による水が入らないよう防湿処理が必要だ

冷却BOXの構想図。放熱側は吸熱+消費電力分を扱うので高い放熱性能が求められる

実験初日~3日目

用意したペルチェ素子は、秋月電子の8A(アンペア)タイプ30Aタイプの2種類で、最大吸熱量(公称)は71.1Wと266.7W!と性能は充分です。

左から40mm角・8Aタイプ(700円)と62mm角・30Aタイプ(2,000円)

ペルチェ素子を重ね合わせると、大きな温度差が生み出すことができる

まずは8Aタイプの特性を知るために、PWM回路を使って実験することにしました。PWMは高速で電気をOn/Offし、その割合でコントロールする手法です。第4回で使ったパルス回路ではOn時間=Off時間つまり50:50に固定しましたが、比率を無段階可変できるように発展させた回路です。12VをOn率20%にすると出力は2.4V相当(12×20%)となるので、この回路で電圧を変化させ、テスターで電流をチェックしながら進めることにしました。

出力10%(1.2V相当)からOn率を徐々に上げていくと、概ね70%が限界のようで、これを超えると2~3秒で電流が流れなくなってしまいます。放熱不足が原因なのでしょうが160mm角の巨大な放熱器に替えても変化がみられません。放熱器の端は冷えたままなので、単純に大きくするだけではなく、ヒートパイプなどを使って素早く広範囲に拡げないとダメなようです。ブタンガスが封入されたヒートレーンを使ったところ少し良くなりましたが、やはり75%前後が限界で、最大の8Aを流すためには大掛かりな放熱装置が必要だとわかりました。

IC・4069を使ったPWMコントローラ。FETを強化すれば大電流も制御可能

ジャンク屋さんで購入したラジエター風の放熱器はブタンガス封入で結構冷えます

次は温度を測定しながらの実験です。約5V相当の40%ぐらいからOn率を上げていくと、電流も冷却性能も比例してアップしていきましたが、60%を超えると頭打ちとなり温度が上がり始めます……より多くのエネルギーを使いながらも冷えない、最悪の状態です。あれこれ試すも改善せず、原因が分からないまま2日目が終了。

3日目に、ダメもとでアナログ式の電圧コントローラを使ったところ、同じ電圧でもはるかに冷えることが判明! ペルチェの制御にPWMはよく聞く話なので、筆者の回路が気に入らないのでしょうか? ペルチェは電源をOffにすると、放熱側の熱が吸熱側に「逆流」する状態になるので、この辺りが関係しているのかな? と仮説を立てながらも思いっきり脱線しそうなので、別の機会に追求したいと思います。

一難去って、今度は電圧コントローラの排熱に悩まされます。アナログ式は使わないエネルギーを熱に変えるため、12Vを5Vに落とし10A流した場合は(12-5)×10=70W(理論値)が廃熱となる、何ともトホホな代物です。ICを取り付けた放熱器を強制空冷しつつ強引に進めた結果、吸熱面の温度と消費電力から考えると5~6Vが好バランスだと分かりました。5Vなら、PCの電源から取れるので電圧コントローラも不要ですね。PWMもアナログ式も不要とわかり、不毛感120%な実験を終えました……。

LM338×3の電圧コントローラは15A対応。凄まじい発熱なので火傷に注意!

実験4~5日目

PC用の645W電源を使って実験再開です。ATX電源は、画像の緑のケーブルをGND(黒のケーブル)につなげば単体で起動可能。一般的には赤のケーブルが5Vなので、これをペルチェ素子につなげばOKです。カップ焼きそば(普通盛)の容器に取り付け中の温度を計ってみると、31℃→25℃に8時間もかかってしまいました。吸熱面は霜だらけになるのに気温は下がらず、要するに効率が悪いってことですね。そこで吸熱面にもヒートシンクをつけたところ、冷却スピードは3倍近くにアップしました。

ここでペルチェ素子の3枚重ねを試します。この方法では大きな温度差が作れるので、期待するところ大です。しかしながら、吸熱側ヒートシンクの霜付きが激しくなるだけで、気温は少し下がった程度。それぞれの素子に異なる電圧をかけてみても、大きな変化は見られません。あれこれ試しているうちに極端に冷えなくなり、確認すると中央の素子が壊れているのを発見。強力な熱伝導テープで留めたのがアダとなり、故障した素子を取り外せず、4日目も終了。せっかくなので故障した素子を切断し、内部をご紹介することにします……。

ツメの脇の緑ケーブルをGND(黒ケーブル)につなげば、マザーボードなしでも電源をOnにできる

吸熱側の結露の様子。水が溜まらないように目の粗いヒートシンクが良さそうだ

5日目は30Aタイプを使って実験再開。8Aタイプ以上に神経質で、放熱側がぼんやり温かい程度でも電流が流れなくなってしまいます。あれこれと工夫しながら続けていくと、8Aタイプと同様に5~6Vが一番安定することが分かりました。このまま使うのも芸がないので、もう1枚購入し、重ね合わせずに並列で使ってみることにしましょう。

ここまでの感想としては、ペルチェ素子は「はじめに冷却ありき」で、放熱側の温度次第で冷却性能が決まるようです。当初、放熱/吸熱の両方にLGA1155用のクーラーを使う予定でしたが、CPUとの接触面が直径30mm程度の円形なのがネックで、62mm角の30Aタイプではペルチェ素子がはみ出してしまいます。あれこれ探すうちにGELID Slim Silence AM2なるCPUクーラーを発見! TDP65Wまでの記載が気になるものの、CPUとの接触面が116×108mmと広く、ペルチェ素子が素直に収まりまりそうなので、これに決定しました。

いわずと知れたIntel純正・CPUクーラー。円形が災いして今回は不採用…

排熱側に使ったCPUクーラー。もっと冷やすには水冷化が必須か!?

やっと? どうにか? 完成!

吸熱側には60mm×140mmのアルミ製ヒートシンクを取り付けます。ファンは熱源となるのでBOX内には取り付けたくなかったのですが、結露による水滴を吹き飛ばす役目を兼ねて60mmファンを取り付けることにしました。25mm厚のスタイロフォームで作ったBOXに冷却ユニットを取り付け通電開始! 各ユニットとも最初は10A近く流れ、3分ほど経つと8.5A前後で落ち着きます。予想通り(?)放熱用のCPUクーラーは容量不足で、熱いと感じる温度になっていたので、ダメ押しで200mm角のアルミ板を取り付けたところ、吸熱側が1℃ほど下がるようになりました。

通電から5時間後に20.2℃をマークし、なんとか目標をクリア。

ただし改善すべき点も満載で、結露で内部が水浸しになるし、フタの開け閉めでBOX内の温度が急激に変化するなど、実用化への道のりは遠そうです。朝晩の温度差が発芽の手助けとなる「変温効果」も考えないといけませんね。ボチボチ改良していきますので、またの機会にレポートします。

吸熱側ヒートシンクの上部にファンを取り付け、温かい空気を吸い込むようにした

30cm×50cm×30cmの育苗BOX。28リットルの大容量なので冷却にも時間がかかります

9月半ば猛暑日に撮影。日中でも20.2℃まで冷却できることを確認し、一件落着!

おまけ

台風一過。ボロボロになりながらも実を結ぶ生命力に感動