日々開発されるさまざまな新製品は、わたしたちの日常生活に新鮮な風を吹き込む。ときには、作り手の強烈な意志がこちらに伝わってくるような、斬新な製品が登場することもある。
目を見はるような新技術が使われているものもあれば、既存の「枯れた」技術を新しい発想で組み合わせたものもある。今まで見たことがないような製品は次の発想を刺激して、さらに新しい製品へと導いてくれる。ものによっては、ひとつの製品が周辺製品やジャンルを作り出し、大きな産業へ育つこともある。
本連載では、新しい技術や新しい発想で作られた独創的な製品の舞台裏を取材して、わたしたちの暮らしを豊かにし、わくわくさせてくれそうな発想の源を探っていく。
入力デバイスの新技術「QUMA」が3D CGを手軽にする
7月21日、ソフトイーサは「QUMA」技術を用いて人体のポーズを手軽にコンピュータへ渡せる装置を開発中であると発表した。人体フィギュアの関節部に埋め込まれた16のセンサがポーズを認識し、そのままコンピュータ上に再現される。3D CGの人体モデルで手間がかかっていたポーズ調整を手軽に行えるようになる。現在までにハードウェアの開発はほぼ完了しているという。
「QUMA」技術とフィギュア型デバイスの開発にあたったソフトイーサの伊藤隆朗氏と3D-GANの相馬達也氏に、開発の経緯やコンセプトをうかがった。
決めポーズをつけやすい人体フィギュア
開発中の同製品には現在のところ名称がない。「QUMA」はこの製品の基盤となる技術の名称であり、いってみれば「VOCALOID」と「初音ミク」の関係にある。「初音ミク」にあたる製品名は現在検討中であるという。
入力デバイスとなる人体モデルは1/6フィギュアに近いサイズで、大きめのデッサン人形のようにも見える。これはセンサのサイズと、人間が扱いやすいサイズを考慮して決められたという。
フィギュアは16カ所にセンサを備えている。頭と首の接合部、首と胴体の接合部、両肩、左右のひじ、左右の手首、胴体内、胴体と骨盤の接合部、足のつけ根(左右)、左右のひざ、左右の足首である。このほかセンサが組み込まれていない可動部が太ももと、肩と上腕の接合部にある。これによって人間らしい多彩なポーズをとらせることができる。
加えて、人体にできないポーズになってしまわない工夫もされている。例えばひざが逆方向に曲がってしまうようなことはなく、自然と人間らしい姿勢になる。その一方で、ひざやひじの裏側には大きく切れ込みが入れられている。腕や脚を大きく曲げたポーズをとれるようにするための造形である。
可動するフィギュアとしての作りが優れているのは、デザインを担当したのがアクションフィギュア「figma」の開発者でもある造形師、浅井真紀氏であるからだ。人間になるべく近い可動範囲を実現しており、無理なく自然なポーズをとれる。
フィギュアはUSBケーブルでコンピュータと接続されている。ポーズを変えるとコンピュータ内の3Dモデルがリアルタイムに変化する。ポーズが決まったら、背中から出ているコネクタのつけ根にあるボタンを押す。これでキーフレームが打たれ、現在のポーズが記録される。入力ボタンがフィギュアの側にあるため、フィギュアを手に持ったまま、次々にポーズを入力できるようになっている。
CGムービーの制作において、人体の動きを3次元的にトレースする「モーションキャプチャ」が使われることがある。この製品は、文楽のように動かしてその動作を入力することもできるが、基本的にはポーズをとらせて記録する。いわば「ポーズキャプチャ」をするデバイスといえる。
フィギュア型デバイスの発売時期や価格は未定だが、一般ユーザーの手に届きやすいものにする。「企業が研究用に買うような価格にはしない」(相馬氏)とのことだった。