毎日毎日残業ばかりで、平日にはほとんど自分の時間を持つことができない、と悩んでいる人は多いのではないでしょうか。夜にオフィス街を歩くと、22時、23時になっても煌々と明かりが灯っているビルを多く見つけることができます。終電で、仕事帰りらしきサラリーマンがぐったりしているのを見ることも少なくありません。これらのことからも、毎日遅くまで残業をしている人たちが数多くいるであろうことがわかります。

統計によると、日本人の一般労働者は年間約2000時間ほど働いているようです(日本生産性本部『日本の生産性の動向 2013年版』より)。これは国際的にも高めの数字です。もっとも、この数字にはサービス残業は含まれていませんから実際にはもっと多いと考えたほうがよいでしょう。「残業なんてほとんどない」と言える日本人は、あくまで少数派です。

長時間働いているが生産性はものすごく低い

問題なのは、こんなにも長時間働いている人が多いにも関わらず、必ずしもその残業が報われていないということです。

前述の日本生産性本部の調査資料によると、日本人の1人あたり労働生産性はOECD加盟国34か国中21位と非常に低水準です。つまり、日本人はたくさん働いてはいるが生産性はものすごく低く、残業が仕事の成果に直結していないのです。

これは実感としてもよくわかるのではないかと思います。毎日深夜まで残業している人の多くは、あまり効率のよい働き方をしていません。人間の集中力はそんなに長く続きませんから、朝からずっと働き続ければ当然夜にはフラフラになり作業効率は激減します。中には、朝出社した時点でもう定時に退社することはあきらめて、ダラダラと仕事をしながら深夜まで会社に残っているような人までいるようです。これでは生産性が上がらないのもあたりまえです。

人間は締め切りギリギリまで時間を使ってしまう

基本的に、「今日は別に定時に帰れなくてもいいや」というあきらめの気持ちが生じた時点で、もうその人は定時に帰ることはできません。これはイギリスの政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した「パーキンソンの法則」(第1法則)を適用して考えてみるとよくわかります。

パーキンソンの法則とは、「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」(第1法則)というものです。たとえば、まったく同じ仕事でも「3日でやってください」とお願いすれば3日間かかり、「1週間でやってください」とお願いすれば1週間かかってしまうというわけです。どんな仕事であっても人間は締め切りギリギリまで時間を使ってしまう、と言い換えてもいいかもしれません。

「今日は絶対に残業しないで定時に帰る」と決意している人にとって、締め切りは定時の夕方ということになります。一方で、「今日は別に定時に帰れなくてもいいや」と残業を受け入れている人にとって、締め切りは残業することを見込んだ深夜です。パーキンソンの法則によれば、仕事の量は締め切りまでの時間すべてを満たすまで膨張します。「今日は絶対に残業しないで定時に帰る」という覚悟で仕事をしている人は定時に帰れるかもしれませんが、「残業してもいい」と残業を受け入れている人は、自らの予想どおりしっかりと残業をしてから帰ることになります。

このことから、残業をしないために大切なことは、定時という締め切りを自分でしっかりと設けそれを守ろうと努力することだということがわかります。「定時に帰る」意志がない人は、定時に帰ることはできません。「終電までに帰れれば別にいいや」というような気持ちでは、本当に終電でしか帰れなくなります。

残業の有無で人を評価するのは完全に誤り

誰だって本当は残業をしたいなんて思ってはいないはずです。それでも残業をしてしまうのは、「遅くまで働いていると上司のウケがいい」「自分だけ残業をせずに帰るとサボっていると思われてしまう」といったように、残業と評価が結びついていると感じていることにあるのではないでしょうか。

現実問題として、たしかにこのように残業の有無によってその人を単純に評価しようとしている職場は存在します。しかし、それは評価の方法としては間違っています。残業で人を評価するのは、仕事の「結果」ではなく「姿勢」を評価していまっている点で完全に誤りです。このような勘違いの結果、日本人は「たくさん働いているのに、生産性が低い」国民になってしまったのです。

「たくさん働いているのに、生産性が低い」国民を脱するためにも、「残業しないで定時には帰る」という意志は忘れずに持ち続けたいものです。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(タイトルイラスト:womi)

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