去る9月21日、東京新宿において、マイクロソフトのKinectを用いたアプリケーション開発コンテストである「Kinect for Windows Contest 2013」の決勝が行われました。コンテストの主催者である東京エレクトロンデバイス様に招待いただき、筆者も観覧に行ってまいりました。

本連載も最近、デプスセンサなどを用いた3Dデータを対象とするコンピュータビジョンの紹介を行っていることもあり、今回は同コンテストのレポートをさせて頂くことにします。

Kinect for Windows Contestは今年で2回目の開催で、昨年度の「Kinect for Windows Contest 2012」では東洋大学メディカルロボティクス研究室の「Kinectによる側湾症計測システム」がグランプリを獲得し、賞金100万円を手にしました。筆者の知る限り(日本ですと)Kinectを用いたシステムが実際に大きくビジネス化している例はまだ少ないと思うのですが、このテストの目的も「Kinect for Windowsを使ったアイデアを製品やサービスとして普及させること」となっており、今年のコンテストでは開催後にマッチングサイト(応募作品が閲覧可能で、企業からのコンタクトを促進するサイト)も公開予定とのことです(詳しくは開催概要の「Kinect for Windows Contestとは?」を参照)。紙面の都合上、各決勝作品の詳細までは説明できませんので、詳細にご興味ある方は、そのマッチングサイトが公開された場合チェックしてみてください。

本年度のルールですが、予選を通過した上位10組で決勝大会を行い、優勝チームには100万円が贈呈されます。決勝の冒頭のアナウンスで主催者様から説明があったのですが、昨年のコンテストはアイデアベースのみの応募が可能だったのに対して、本年度はエントリーする際に「デモ動画」が必須となったこともあり、エントリー数そのものは昨年より大きく下がったものの(昨年は81チームから本年度は32チーム)、昨年よりレベルの高い作品が集まったとのことでした。

今年の決勝は以下の表に示す、10作品が決勝に進出しました。(プレゼン順、敬称略)

No 応募者名/チーム名 作品名
1 TME 簡易疲労度測定システム
2 ヨシダチーム ツミキスカイタワー
3 リサーチキング 自律巡回 Kinect警備ロボ Pochi Mk-II
4 four-dee face4D(フェイス フォーディー)
5 三木大輔 Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム2013
6 カモス アドマエストロ
7 上田智章 非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍)
8 稲葉洋 医薬品監査システムの開発
9 RehAct研究会 高齢者遠隔運動指導・管理モデルRehAct
10 anno lab あの体を使って遊べるアトラクション型ゲーム集

決勝ではこの表の順で、各チームのプレゼンテーションが行われ、各プレゼンテーションの後には審査員のみからの質疑応答が行われました。そして、全プレゼンテーションの後、デモンストレーション時間になり、その間、別室で審査員による審査が行われていました。

審査の結果、以下の3賞が選ばれました。順に簡単ですがご紹介します。

アイデア賞:三木大輔氏「Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム2013」

腹腔鏡手術中に、Kinectで手術中の部位を撮影しておき、その撮影中の点群に、患者の腹部に挿入されている術具の位置姿勢をマーカによって計測し、これにより見えない部分についても術具の状況を可視化するというアプリケーションでした。目的としては、この可視化により手術者の失敗を減らし、かつ手術効率を上げることで、より患者の負担が少ない腹腔鏡手術を実現するためとのことです。

三木氏は東京医科歯科大学の修士課程の学生で、昨年のコンテストも決勝大会に進出して、奨励賞を受賞されています。本システムは以前から学校での研究で行っていたものを投稿したもので、豚の手術中に試すことで検証を行い、すでにアメリカの学会でも発表済みとのことでした。現在三木さんは別の研究に取り組まれているとのことで、本プロジェクトは現在進行中でないそうなのですが、このような手術補助目的の3D画像センシングおよび3D可視化は今後更に実用の広がりを見せてくると思いますので期待したいところです。

アイデア賞を受賞した三木大輔氏の「Kinectを用いた腹腔鏡下手術支援システム2013」

技術賞:上田智幸氏「非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍)」

技術賞は、プレゼンテーション中で「趣味で(※「本業の業務でなく」の意)」土日に取り組んでいることです」という説明をされていた上田智幸氏の作品です。人体の表面を計測したKinectのデプス情報を波形解析することで、人の呼吸の様子や心拍を測定するというシステムです。椅子に座った状態で対象の人をKinectで撮影するだけではかることができ、洋服を着たままでもそれらが計れるというものでした。

上田氏は、普段は接触型の生体情報センサの開発経験もあることから、「Kinectのような非接触センサでも、ここまで同じような情報がセンシングできるのか」という衝撃や驚きを感じながら、今回のシステムの研究開発に取り組んでいることとの話でした。

上田氏は上記動画に本アプリケーションの紹介動画をアップロードされています。Kinectのおかげで非接触に、しかも暗いところでも生体信号がセンシングできるので(※Kinectは赤外線プロジェクターカメラシステムなので照明を消していてもデプスが計測できる。詳しくは次回以降の本連載で)、例えば浴室やトイレなどでの生存確認や、病院や老人ホームの夜間監視などにも役立つのではという動機を話されていました。デモンストレーション時間に一番盛況だったのが上田氏のブースでした。私個人としても実用化に向けた今後の動きを期待しております。

技術賞を受賞した上田智幸氏の「非接触バイタル・センシング(呼吸と心拍)」

グランプリ賞: four-dee「face4D(フェイス フォーディー)」

見事グランプリに輝いたのが、株式会社four-deeの岩瀬氏による「face 4D」です。ディスプレイの上に固定したKinectにより、Kinect Fusionを用いて顔のビフォーとアフターの形状を撮影します。そうすると、2つの顔データがKinect Fusionにより3D撮影・位置合わせされているので、2データ間の顔の部分領域ごとの形状や体積の変化を数値化・可視化できるというシステムです。

プレゼンテーションでは「美容や形成外科などでの応用を狙ったもので、マッサージや形成外科手術などの前後で、これまでは写真通しの曖昧な比較できなかったものが、本システムにより顔を撮影しておけば、3D計測した顔の形状どうしの違いを客観的に数値化できる」という話をされていました。優勝が決まった後のコンテストで「上田氏の作品の技術力がすごくて圧倒されていた」と謙遜されていましたが、審査委員の講評でも「顔だけではなく全身にも使用できそうですし、フィットネスクラブや家庭などでの使用も考えられるのではないか」というコメントをもらっており、そういったポテンシャルのあるアイデアでもあることから、一位を獲得したのではないかと思います。

グランプリ賞と受賞したfour-dee「face4D(フェイス フォーディー)」

以上、入選した3賞の紹介でした。いずれも、今後の3Dコンピュータビジョンの広い実応用の可能性を感じさせるものであったと思います。3賞以外の各チームも力作ばかりだったのですが、紙面の都合上、以下では個人的に「手作り感」が印象に残った1チームだけ、追加でご紹介します。

リサーチキング「自律巡回 Kinect警備ロボ Pochi Mk-II」

同じ会社で仲が良い3人で集まって業務とは別に開発した、Kinectを用いた自律巡回ロボットの作品です。ロボットの上に乗せたKinectで前方状況を監視しており、そのKinectからのデプス入力の解析に基づいて障害物を避けながら方向転換しながら自律的に移動します。また不審者などが居たらそのスナップショット画像を撮影して中央サーバに報告する、といったシステムです。簡易的なマップ作成も既に実装されていました。

このリサーチキングさんに、デモンストレーション時間中に、開発に関する話を聞かせていただくことができました。話をしていて驚きだったのが、チームの誰一人として、ロボットやコンピュータビジョンが専門の人が居ないという点です。ロボットの中にはArduinoベースでKinectとモーターコントローラーを用いた自律移動アルゴリズムが組み込まれているそうなのですが、これらは自作で勉強しながら完成させたとのことです(※昨年時は外付けの制御用ノートPCで制御していたロボットが、本年度自律移動式に進化しています)。彼らは土日で集まって(ハッカソン的に)開発したとのことで、本年度の作品の工数を尋ねたところ、「およそ40から50時間くらいでしょうか」とのことでした。

リサーチキングの「自律巡回 Kinect警備ロボ Pochi Mk-II」

今回のコンテストでも既に、企業がリソースをかけて製作している実際の応用製品の作品も数個ありましたが、このリサーチキングや技術賞の上田氏の作品見て私が感じたのが「Kinectが下げた3次元センシングのハードルの低さが参加者層拡大に反映されている」という点です。もちろん、初心者がすぐに高度なアプリケーションを作れるわけではないのですが、Kinectが安価な3Dデプスセンサーであることによって、「個人参入的にでも」Kinectを用いたシステムの完成に到達しやすいメリットが生まれやすいメリットが現れていると言えそうです。

まとめ

以上、Kinect Contest for 2013についてのレポート記事でした。10作品すべての詳細はご紹介できませんでしたが、幅広い各産業分野向けに個性豊かでしかも実用性が高い、Kinectアプリケーションが提案されていたと思います。今後の3D画像センシング技術の活用拡大を願ったところで、今回のコンテストのレポートを終わりとします。

なお、写真は東京エレクトロンデバイス様より提供をいただきました。ありがとうございました。