牛めしの「松屋」を中心に全国で約1,000店舗を展開する松屋フーズ。社員の半数以上が店舗で働く"営業職"だ。ほとんどの店舗が365日年中無休の24時間営業であり、女性社員も夜勤をこなすのが当たり前。それが、2016年4月に導入した「ワーキングマザー社員制度」によって、働くママは夜勤が免除されるようになった。フードサービス産業としては先進的な取り組みともいえる同制度導入の背景や意図について、松屋フーズ人事総務部長の丹沢紀一郎さんに話を聞いた。
自宅から1時間以内の店舗配属、時短勤務も
2016年4月1日より、子育て社員を支援するために導入された「ワーキングマザー社員制度」。主に店舗で働く営業職の女性を対象にしたもので、その骨子は2つある。
まず1つ目は、勤務地を自宅から通える店舗に限定すること。「当社の勤務は、勤務地を問わない"地域非限定"と配属地域を限定する"地域限定"の2コースから選べます。ただ、地域は全国に6つしかなく、"関東限定"といっても、東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬・山梨と範囲がかなり広い。それで、この制度を使えば、自宅から通える店舗で働けるようにしました。通える通勤時間の目安は大体1時間以内です」。
2つ目は、勤務時間を8時~22時のあいだで自由に選べるようにしたこと。さらに以前からあった時短制度も、最長2時間から3時間まで延長した。「基本の勤務時間は9時から18時。3時間の時短を使えば、例えば9時にお子さんを保育園に送って10時から働き始めれば、16時に退社して17時に迎えに行くことができる。"帰りは父親が迎えにいくから少し遅くまでは働きたい"というニーズにも対応できます」。
同制度は妊娠中から第1子が小学校を卒業するまで使える。ただ、現時点で制度の利用者はゼロ。これは単純に、対象となる妊娠中や子育て中の女性社員が現在いないからだ。松屋フーズにおける女性社員の割合は約1割。営業職となるとさらに少なく7.8%ほど、全国で60名(※2016年3月末現在)しかいないのだ。
「将来ママになっても働きたい」という思い
すぐに使う人がいないのに、制度を整えたのはなぜなのか。それは女性社員から聞かれた「結婚や出産を理由に、同期の女性社員が辞めていくのは残念」という声だった。
これまでも会社として、子どものいる女性社員の働き方には配慮をしてきたが「"夜勤ができなければみんなに迷惑をかける"という心理的な負担が大きかった」と丹沢さんは語る。中には社員を辞めて、アルバイト勤務に変える人もいたそうだ。
そこで「出産しても女性が働き続けられる会社にしよう! 」と2014年に発足させたのが「女性活躍推進プロジェクト」。店長やストアチーフ(店長代理)など営業職の女性が中心となり、女性の立場から労働環境や店舗運営について提言をしようという取り組みだ。このプロジェクトで寄せられた詳細な希望やニーズを取り入れることで、具体的な制度へと落とし込んでいった。
まだ制度の利用者がいないことからもわかるように、プロジェクトメンバーが「こうした制度が欲しい」と声をあげたのは、必要に迫られたからではない。あくまで「これから自分たちが松屋でずっと働くなら、こういう制度があったほうが安心」という思いからだ。
「ワーキングマザー社員制度」によって、今後はママになってからも社員として働く道が大きく開かれたことになる。ママにとってはうれしい制度だが、一方でほかの社員にしわ寄せはいかないのか。人事担当者も「最も苦労した」という仕組みづくりについては、後編でお伝えする。