クルマのナンバープレートがなくなる日が来るかもしれない。欧州半導体のNXP Semiconductorはすべてのクルマに搭載する電子的なナンバープレートを提案している。従来の金属製のナンバープレートよりもセキュリティがしっかりしており、何よりもクルマを電子的に正確に同定できる。犯罪防止や盗難の減少の役に立ちそうだ。NXPはこのほど、世界のエンジニアを対象としたWebinarを開催し、その提案を世界中に問いかけた。その全貌を紹介する。

現在は、すべてのクルマに金属製のナンバープレートが世界中で義務付けられているが、このナンバープレートは目視あるいはカメラでしか認識できない。もし、すべてのクルマが電子的にID(Identification)ナンバーを持っているとどれほどのメリットがあるだろうか。

広い駐車場で自分のクルマを見つけやすい

例えば駐車場では、どのクルマが今どのスペースに入ったか、出て行ったか、空いているスペースはいくつあるか、今何台入れるか、といった駐車場情報がリアルタイムでわかる。東京ディズニーランドのような広い駐車場だと、自分の止めたクルマの位置がわからなくなるが、このような場合、駐車場のトランスミッターがクルマの位置データを認識、格納しておきさえすれば、個人のスマホから問い合わせると、その位置データを送信してくれればわかるようになる。

また、法的な拘束力を強めれば犯罪防止にも使える。クルマのIDチップを簡単に盗むことができないようにし、盗めば法的に罰せられるようにする。クルマのスピード違反の検出、逆走の場合の検出や本人への通知も可能になる。IDの導入は各国政府の大きな収入にもなる。もちろん、高速道路の料金徴収が進んでいない国や地域では最初から導入しやすい。

名古屋港や横浜港からのクルマを巨大な貨物船に搭載する場合の管理システムでは、クルマの管理が容易になる(図1)。どの車がどの位置に停車しているか、を容易に把握できる。欧州のように国境を通過する場合の手続きの簡素化にもなる。誰のクルマか、そしてドライバーの免許証の持ち主と同じかどうか、がすぐにわかる。

図1 電子的なナンバープレートにはさまざまな応用が考えられる(出典:NXP Semiconductor)

高速道路の料金所の上にトランスミッター(送信機)を設置するのではなく、道路上や街灯などにクルマのIDを検出するトランスミッターを備えていれば、渋滞情報をリアルタイムで提供できる上に、どのようなクルマが多いのか、クルマの種類も区別できる。物流システムでは、クラウドを使って、配送トラックをリアルタイムで追跡でき、運行状況を本社から把握できる。

こういったIDを検出するのに、どのような技術があるか。NXPは、クルマを管理するのに必要な技術が、重要な4つの要件(信頼性、低コスト化、セキュリティ、ID)を満足しているかどうかについて検討を行った。

アンテナループ、カメラ、RFIDを比較検討

具体的にはNXPは3つの方法を検討した(図2)。1つは道路の中にメタルのループアンテナを埋め込む方法、もう1つは高分解能のカメラを使う方法、そして最後は非接触で電波を飛ばし、そのエネルギーで回路を動かし応答するというRFIDである。ループアンテナを埋め込む方法は、信頼性が高く、シンプルなので安価ではあるが、金属物を検出するだけなので、セキュアではない。しかもクルマであることを検出できても誰のクルマかは同定できない。

図2 検討した3つの方式(出典:NXP Semiconductor)

カメラを使う方法は、犯罪やスピード測定には今でも使われている。しかし、カメラだけではなく、画像認識ソフトウェア、コンピュータのハード、ストレージメモリなども必要で高価になる。雨や雪などの悪天候では使えない。

これらの方法に対して、RFIDだと、信頼性、低コスト、セキュア、同定可能、すべてを満足する。埃や雪雨などの天候にも強い。カメラを用いる方法に比べると安く、しかも運用コストもかからない。コピーされないようにソフトウェアのID/パスワードにハードウェアの暗号化などでセキュアにできる。加えて、すでに商品タグなど同定可能な実績がある。

RFIDには、パッシブ方式とアクティブ方式がある。パッシブ方式は、電波を受けそのエネルギーで内部の回路を動かし、応答を返す、というもの。電車の切符代わりになった「Suica」や「Pasmo」と同様、エネルギーハーベスティングそのもので、電池を使わない。アクティブ方式は電池を使って回路を動かし、強い電波を飛ばすことができる。しかし、アクティブ方式は、電池切れやメンテナンスが必要になる。

やはりパッシブ方式のRFIDが有力

NXPが提案するのはパッシブ方式で、しかもUHF帯の電波を使う。Webinarの質問にもあったが、飛ぶ距離は5m程度であり、料金所などでは速度を落とす必要があるという。時速160kmで走行すれば検出されないと見ている。

セキュリティ(図3)は、ハードウェアの暗号化によって担保される。暗号化技術はもともとNXPの強い分野である。単なるID/パスワードの入力やデジタルシグネチャ、独自のプロトコルなど、ソフトウェアによるセキュリティだと破られやすいという欠点がある。NXPの暗号技術は、コンピュータベースの暗号化のカギをトランザクションごとにダイナミックに変えてしまうというもの。以前使ったカギは決して残さない。

図3 トランザクションごとにダイナミックに暗号キーを変えるUCODE方式(出典:NXP Semiconductor)

NXPが提案するUHFパッシブIDプレートは、ドライバー免許交付の時に渡されるべきものと想定している。現在は2種類のプレートを想定しており(図4)、1つは電子免許プレート、もう1つはフロントガラスに貼るステッカーである。

図4 ナンバープレートに埋め込む電子免許プレート(オプション1)と、フロントガラスのステッカー(オプション2) (出典:NXP Semiconductor)

金属製の電子免許プレートの中にRFIDタグを埋め込んでおり、金属プレートにアンテナとしての役割を持たせることができる。ナンバープレートほどの大きさであるため、RFID機能だけではなく、光で読み取る手法とも組み合わせることができる。しかし、ナンバープレートそのものが盗まれる恐れは残っている。

もう1つのフロントガラスの内側に張り付けるステッカー方式は盗難されにくい。外から盗もうとすると、ステッカーもろとも破壊されてしまうからだ。ただし、ステッカーそのものは小さいため、アンテナメタルを印刷などで描くとしても感度が小さくなるという恐れはある。

原理的にはナンバープレートを外すことは可能である。しかし、各国政府はナンバープレート方式に慣れているため、規制を変えない国ではナンバープレートを一気に外すことは難しいかもしれない。NXPは両方を採用する方が保護には適しているとしている。

NXPは、UHFタグやプレート、シールだけではなく、RFIDシステムに必要なハンディおよび据え置き型RFIDリーダーや、リーダーアンテナに加え、ロードカーテン、ゲート、トーテム、バックエンドのソフトウェアソリューションなども用意している。