1杯300円程度で食べることができる牛丼。日本のファストフードとして確固たる地位を築いているが、海外でも人気を集めているのをご存知だろうか。まずは4回にわたって、タイ・バンコクの牛丼店を紹介していく。
1食200円程度で食事ができるタイにおいて和食は結構お高いため、これまでは「大戸屋」ですら高級レストラン扱いであった。だが昨年、日本の牛丼チェーンが相次いでタイにオープン。「和食」の立場が微妙に変わりつつある。また、いくつもの牛丼チェーンが一斉に進出したため、プチ牛丼バトルが繰り広げられているとかいないとか。実際にバンコクで牛丼を食べ比べてみた。
気配りマッチョの店「筋肉牛丼」
バンコク在住15年超の食いしん坊T氏によると、タイに日本の牛丼チェーンが登場したのは昨年が初めてというわけではない。「吉野家」は10年以上前にもタイに支店をオープンしたが、3年後に撤退した過去があるのだそうだ。
今回タイに相次いでオープンしたのは、2度目のタイ進出となる「吉野家」と、まったくの新規で参入する「すき家」。いずれも日本国内でも熾烈な戦いを繰り広げている牛丼大手である。しかし実はバンコクには先住の牛丼店がある。ある意味とても有名店でもある「牛野家」、そして唯一タイ人による経営の「筋肉牛丼」だ。この2店舗を除いてはバンコク牛丼事情を語れないと勝手に判断し、全4店を食べ歩いた。
まずは地元バンコク出身の「筋肉牛丼」から。BTSアリー駅前にある小さなショッピングモール内にあり、日本人観光客がターゲットではないことがうかがえる。前出のT氏によると、この店のオーナーはタイ人だが、日本の漫画『キン肉マン』の大ファン。ご存じの通り、牛丼はキン肉マンの大好物として作中に何度となく登場する。漫画からインスパイアされてできたのがこの「筋肉牛丼」で、店内にはキン肉マンの名場面やフィギュアが飾られている。
訪れた時間が遅かったため、店内はがらんとしていたが、それでもタイ人の若者数人がおしゃべりをしながら食事を楽しんでいた。牛丼といえばファストフードであり、一人で入って黙って食べてさっさと出てくる、という印象だが、こちらはレストランとしての地位を確立しているもよう。確かに、牛丼は175バーツ(約440円)と、日本の感覚で考えても牛丼にしては高い。これは高級牛丼なのだろうか、期待が高まる。
注文後、10分経過しても料理は出てこない。その時点でこの店はファストフード店ではないことがわかったが、それにしても遅すぎる。ヒマなのでメニューを細かく見てみると、ハンバーグや天丼、焼き魚定食的なものまである。タイ人経営でありながら日本語表記の多いメニューだが、ハンバーグは「ハンブルグ」と書いてあったりするので、外国風情はたっぷり。枝豆があったり日本酒を取り揃えてあったりして、ファミレス的な居酒屋といったところだろうか。ファミレスにしても料理が出てくるのが遅いが……。
玉ネギなし、肉とごはんというマッチョな牛丼
そこへ、満を持して(?)牛丼登場。ここで値段の理由がわかった。デカいのだ。日本の牛丼チェーンの「特盛」よりも量が多いのではないだろうか。「寿司か! 」とつっこみたくなるほどぎっちぎちに詰められたごはんの上に肉のみの牛丼である。そう、肉のみ。牛丼といえば玉ネギが入っているものではなかったか? ここの牛丼には玉ネギは入っていない。肉とごはんのみ、という実にマッチョな牛丼なのである。
とはいえ、つゆだくが好きな人もつゆなしが好きな人も対応できるよう、つゆは別についてくるという細かな気配りが見られ、これまたキン肉マンのフィギュアの写真を撮らせてほしいと頼めばにこやかにテーブルに並べてくれるという、タイならではのホスピタリティが感じられる。
肝心の味はといえば、刻み海苔がかかっているせいか磯の香とだしの味が引き立っている。ごはんも日本のお米だし、ちゃんとした牛丼だ。とはいえ、肉とごはんのみ、というのはどうしても単調になりがちで、量の多さもあいまって食べ飽きてしまい、全部食べられないという悲しい結果となった。「オクラ牛丼」や「マヨ牛丼」などのアレンジメニューも試してみたが、こちらのほうが味や食感に変化があるので食べ進めることができる。特にオクラ牛丼はもともとだしの強いつゆな上、オクラのうえに鰹節がトッピングされているので和風の味が楽しめる。
まぁ、キン肉マンが好んで食べる牛丼なのだから、ボリュームがあってマッチョであるのは当たり前なのかもしれない。マヨ牛丼なんて見ただけでおなかいっぱいになりそうなこってりぶりだが、それでもこれはこれでいいのである。この店にはぜひともお腹を空かせて出かけたい。