トランジスタなど個別素子は説明せずにOPアンプに絞っていく

ここまで抵抗とコンデンサについて説明してきました。アナログ回路としては「増幅」などの信号変換回路が必要になります。古くからの回路技術ではトランジスタなどの個別素子を用いて回路が構成されているため、従来の技術解説ではそれらの素子について詳しく説明されてきていました。

しかし、現代のアナログ電子回路設計では、あまりトランジスタのような個別素子は使わずに、これから説明するような図2-5-1で示す「OPアンプ(Operational Amplifier:演算増幅器)」を用いて(増幅回路などを)設計することが基本です。そのため、本連載でもOPアンプについてのみ「アナログ回路に必要十分なものとして」具体的な説明を行っていくことにします。当然組み立てデモでもOPアンプを用いた製作を取り上げます。

図2-5-1 現代のアナログ増幅回路で主役として用いられる「OPアンプ」(写真のOPアンプはアナログ・デバイセズの低ノイズOPアンプ「AD797ANZ」)

適切な種類のOPアンプを選択しよう

増幅のための素子、OPアンプには多数の種類があります。皆さんの周りにも、コンピュータの専門家、金融の専門家、音楽の専門家などなど、それぞれの人が異なる専門になっていると思います。OPアンプも一緒で、完全万能というOPアンプというものはなく、精密計測用、高速回路用、低消費電流用など、それぞれ専門分野で性能を発揮できるようにチューニングされた、たくさんの種類のOPアンプが用意されています。

実際の回路設計においては、その分野で性能が得られる適切なOPアンプを選定する必要があります。

なお「汎用」と呼ばれる便利屋のようなOPアンプの種類があり、それらは単価も安く、いろいろな用途で活用できます。この製作においても(オーディオ周波数だということもあり)汎用OPアンプを活用していきます。

OPアンプとはどんなもの?

OPアンプを本格的に活用するには、いろいろなアナログ回路技術とノウハウが必要ですが、ここでは「初めてのアナログ回路」という視点に立って、最小限の必要知識と基礎的な動きにとどめて説明します。まずは敷居を下げて、とりあえずOPアンプを動かせるレベルで理解しておきましょう。

OPアンプは図2-5-2(a)のような回路シンボルで描かれます。実際に製作で用いるOPアンプも同図(b)に示しておきましょう。この回路シンボルは「なんだか不思議だなあ」と思うかもしれませんが、図2-5-3のように入力が2つあり、それが合成されて出力される、そしてその増幅率が相当大きい(小さい入力信号がとても大きくなって出てくる)増幅器、つまりアンプだと思ってください。実際にもこの回路シンボルの中はトランジスタなどの素子が複雑に多数接続された回路ブロックであり、そのブロックを1つの回路シンボルとして表しているのだと思ってください。

理論的に検討するときには、増幅率が無限大(であると考える)の「理想OPアンプ」というものを用います。当然、「理論的に考える」ときのためであり、現実のOPアンプは無限大の増幅率を持つ「理想的」なものは当然あるはずはありません。

図2-5-2 OPアンプとは何者か紹介する

(a) OPアンプのシンボル

(b) 今回製作で用いるOPアンプ(単電源・低消費電流、高精度・広帯域OPアンプ「AD8632ARZ」)

実際のOPアンプの基礎的な動きを理解する

図2-5-3のようにOPアンプは+入力端子と-入力端子があり、まずこの「差分量」が引き算により求められ、つぎにこの「差分量」が大きく増幅されます。

「差分量」の引き算についてですが、理想的なOPアンプを例にしてしまいますが(実際のOPアンプではいろいろ限界がある)、この+入力端子と-入力端子それぞれの電圧が、「グラウンドを基準として何Vであるか?」ということは関係ありません。単純に「差分量がどれだけあるか」に関係します。

なお、この「グラウンド」とは、「地面」とか「基準面」という意味で用いられるものです。基準となる電圧、つまりゼロ(0)Vのことです。

次にこの差分量が同図のように、無限大に近いほどの増幅率で増幅されます。無限大に近いといっても実際のOPアンプは数万~数100万倍というオーダの増幅率になっています。なお今後のアナログ回路技術を勉強していくための道しるべとして、「OPアンプのこの増幅率は直流におけるもの、交流で周波数が大きくなってくると低下してくる」という点を覚えておくとよいでしょう。

図2-5-3 実際のOPアンプの基礎的な動き(入力が2つあり、それが合成されてとても大きい増幅率で出力されるアンプ)

グラウンドという用語はよく出てくる

電子回路の書籍を読んだりすると「グラウンド」という用語がよく出てきます。これは先に示したように「地面」、「基準面」という意味で、基準となる電圧、つまりゼロVのことです。よく出てくるので、またこの連載でも使っていきますので覚えておいてください。

大きな増幅率ではきちんと増幅できない?(「帰還」で制御)

「OPアンプが図2-5-3のように動くのであれば、たとえば増幅率が100万倍だとすれば、1mVを入れても、1,000Vが出てくるはず。意味が無いのではないか?」と当然考えることと思います。

実際のOPアンプの使い方としては、この2つの入力端子に単に入力信号を与えるということではなく、「帰還回路」という回路(より正確には「負帰還回路」)をOPアンプの外部に構成し、それにより入力と出力の間のバランスを制御し、目的の動作を得るようにします。

この「帰還回路」で制御されたようすを図2-5-4に示します。一番基本的な構成として、同図(a)のような「反転増幅回路」(信号が反転して出てくる)と同図(b)のような「非反転増幅回路」(信号が反転しないで出てくる)の2つがあります。回路の組み方としてはぜんぜん違うように見えますが、外部の「帰還回路」により入力と出力の間のバランスを制御する、という考え方はかわりません。次回は図2-5-4(a)の「反転増幅回路」の動きを説明しましょう。

図2-5-4 「帰還回路」で制御されたOPアンプの動き(左が反転増幅回路。信号が反転して出てくる、右が非反転増幅回路。信号が反転しないで出てくる)

著者:石井聡
アナログ・デバイセズ
セントラル・アプリケーションズ
アプリケーション・エンジニア
工学博士 技術士(電気電子部門)