【連載】

巨人Intelに挑め! – サーバー市場に殴りこみをかけたK8

21 【番外編】還暦大学生奮闘記 その2

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近頃の大学生は…

全く近頃の大学生は…と喝を入れるつもりであったのに、実際に学生になって分かったことは今の学生が40年前とは段違いに真面目に勉強しているということであった。入学当初、彼ら独特の今風の話し方、携帯を手にしながらたむろしている姿などを見て"こいつらまったく昔のころの学生と変わりないな、しょうがないやつらだ。私のように真面目に勉強をやりなさい"、という印象を持ったが、これはとんでもない間違いであった。

彼らは非常に優秀で、私が最初に大学生だった頃とは比較にならないほど真面目に勉強している。国際競争力の低下を懸念する文科省のここ10年の指導の結果であると見受けられる。私の時代では(というか、これは私自身の特有な問題であったことはある程度認めなければならない。当時でもしっかり勉強していた学生はたくさんいた。)教室はたいていがらんとしていて、キャンパスにはのんびりとした雰囲気が充満していた。今の学生生活で気がついたことは以下のとおりである。

  1. 人気講義などになると教室は満杯で、時間に遅れると席を確保するのに苦労するほど。図書館の利用も非常に盛んである。私はこの原稿を図書館のPCを使って書いているが、外がとっぷりと暮れた6時を過ぎた今でも図書館に設置された50台以上のPCはすべて学生たちが使っていて、カタカタというキーボードの音が忙しく聞こえている(因みに、私がかように遅くまで大学にいるのは夜に飲み会が設定されていて、それまでの時間をつぶしているわけだが…)。
  2. ほとんどの先生がいつも準備万端。オリエンテーションで紹介した内容をスケジュール通りにこなしてゆく。内容が満載なので、90分間マシンガンのように話し続ける先生も多い。それを学生たちは注意して聞きながらせっせとノートをとっている(もちろん中には居眠りする者もいるが)。昔では当たり前だった先生の勝手な都合での休講などはあり得ない、休講すると必ず補講がある。提出論文の正しい書き方についての指導が常に入る。
  3. 学生たちが学食などで話している内容はいたって真面目で"どこそこの講義はかなり厳しい、あるいは単位がとりやすい"、"この講義は抜き打ちで出欠をとる"とかの授業に関することが圧倒的に多い。
  4. 10年くらい前に欧米から導入され、多くの大学で採用するようになったGPA(Grade Point Average)などの影響で、学生たちの多くは単位を取るだけでなく、よい成績をとることに大きな関心がある。これはGPAが就職活動に影響するからであろうと推察する。
  5. 来年度以降の履修について変更が加えられたと知らされているが、それによると履修内容はさらに増量され、講義のコマ数が増える。休み時間は短くなり、5時限目の終了時間も遅くなるらしい。もっと詰め込むつもりなのだ。

冬学期のカリキュラム表、経済、商学、法学、社会科学関係の授業がずらりと並んでいる

先日、AI(人工知能)マシンが東大入試突破を断念した、というニュースが話題になった。私も暇に任せて、本屋に行き自分の大学の入試試験の過去問題集(いわずと知れたあのオレンジ色の本である)を手にしてみた。ざっと問題をチェックし私自身はどれだけ点数がとれるか試してみた。

英語は仕事で長年使ってきたので高得点、数学はやはりすっかり忘れてしまって駄目であったが、驚いたのは社会科(世界史、日本史、倫理など)の難易度が非常に高いことである。ほとんどが論述式で、年表を覚えるだけでは到底回答できない。実社会で得た知識があるのだから何とかなるだろうと高をくくっていたが、とんでもなく難しい。欽ちゃんのように入試から突破するのは至難の業だということを実感した。この入試を突破してきた若者たちが集まっているのだから大学の授業もそう簡単ではないのだと、私の安易な考えを反省した。

キャンパスのいたるところに美しい紅葉樹が見られる。近隣の住民の憩いの場ともなっている

還暦大学生の利点

単純に、学生生活を若い人たちに囲まれてのんびりとエンジョイすることができると高をくくっていたが、最初の学期は何もかもが新しく、想定外の事態が多数発生したので緊張の半年であった。しかし、還暦大学生にも大きな優位性はある。

  • まず、学割など学生の特典が使える。何しろ学生証を手にしているのだから、いろいろな面で優遇措置が受けられる。ただし、年齢制限があるものもある(携帯電話の契約は年齢制限があることが分かった)。先日、久しぶりに映画館に行ってチケット売り場の若い女性に"こう見えても私は学生ですから、学割料金でお願いします"と勢い込んで言ったら、じいっと学生証を見た後で"お客様の場合はシニア割のほうがお得ですが"と、にこっとされたときはさすがにのけぞった。
  • 私はすでにこの大学で学士を取得している(入学の手続きの際に恐る恐る自分の過去の成績表を探してもらって提出し、受理されたのだから確かにそうなのだろう)。今回は同じ大学の他の学部に学士入学しただけで、マスターコースを目指しているわけではない。だから、私の当面の目標は卒業することである。しかし、私の場合単に勉強をするために入ってきたのだから卒業する必要がない。ということは授業を目いっぱい聞いても授業を聞くこと自体が目的なのだから、極端な話、試験を受ける必要がない。受けて落とされても、そんなの関係ない、ということになる。今の私には、大学生活に関する限り怖いことは何もない。先日、学務課の職員に私は"何年までいられるんですか?"、と聞いたところ、少々困った顔をして"当面の目標は2年で卒業ということでお願いします"と言われた。

歴史を学ぶ喜びと重要さ

私の時代には正門の両側に学生運動のたて看板が並んでいたものだが、今では就職関係のセミナー、学生コンサートの案内などがぱらぱらと置いてある程度である

私が還暦を迎えて大学に戻ろうと考えた第1の理由は、歴史をきちんと学びたかったからだ。昨今の日本を取り巻く世界情勢は信じられないスピードで大きく変化している。しかも、民主主義、資本主義、国家、常識、倫理といった、今までたいていの人々が話題にする必要のなかった、固定化されたと思われたシステムがその実態を問われている。

最近新聞を読む時間が増えて、時々コラム記事をじっくり読むことができるようになった。さすがにコラムを書くジャーナリストはそれなりの経験、見識を持った人たちであるので"目の前で起こっている事象をどう解釈すればいいのか"という点で非常に参考になるが、私にはあまりにも知らないことが多いことにいつも唖然とさせられる。よく今まで60年も生きおおせたことだと恥ずかしくなるくらいである。目下、大学では日本、西欧の歴史、倫理、哲学などを重点的に勉強している。歴史について言えば、日本にいると国同士の関連性上、アジア、米国の情勢、歴史などはある程度身近な知識として持っていても、ヨーロッパ、ロシア、中東となると、歴史的な重大な出来事でもよく知らないことが多い。また過去に起こった所謂“歴史的事実"というものも、実はその解釈については時代時代で変化するものだということも分かってきた。

卒業をする必要がないのは分かっていながら、根っからの貧乏性の私は迫りくる中間レポートの期限におののきながら毎日授業にだけはせっせと出席している。


このシリーズも、皆様の温かいご愛読のおかげで一年継続することができました。お礼を申し上げるとともに、来年が皆様にとって素晴らしい一年でありますように祈願致すところであります。年明けからは、AMDのシリーズ最終章であるインテル社との法廷闘争とその経緯について展開いたしたいと存じます。相変わらずのご愛読をお願い申し上げます。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
・連載「巨人Intelに挑め!」記事一覧へ

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インデックス

連載目次
第21回 【番外編】還暦大学生奮闘記 その2
第20回 【番外編】還暦大学生奮闘記 その1
第19回 日米半導体摩擦の時代
第18回 【番外編】ジョイントベンチャーと温泉宿の浴衣
第17回 【番外編】フェラーリ、F1レースの思い出
第16回 286からK8まで – これまでの連載を振り返って
第15回 バルセロナの苦い思い出 - クアッド・コアOpteron登場
第14回 インテルの逆襲
第13回 デュアルコアで花開いたK8アーキテクチャ
第12回 付け焼き刃だったインテルのEM64T
第11回 背筋を凍らせたプロジェクトYamhill
第10回 【番外編】Athlon64とコンシューマー市場のマーケティング
第9回 【番外編】AMDでのマーケティングで私が学んだこと - その3:Opteronマーケティング
第8回 【番外編】AMDでのマーケティングで私が学んだこと - その2:インテルインサイド・キャンペーンの本当の意味
第7回 【番外編】AMDでのマーケティングで私が学んだこと - その1:初期の半導体マーケティング
第6回 Athlon64・Opteron発表
第5回 【番外編】吉川明日論、iPhone SEを論じる
第4回 AMD64アーキテクチャとK8のハードウェアの特徴
第3回 K8開発当時の背景
第2回 AMD K8誕生の背景とダーク・マイヤーの夢
第1回 AMDのCPU開発史と連載を振り返る

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