日産自動車の「リーフ」は電気自動車(EV)の先駆者と呼ぶべきクルマだ。このほど発表になったリーフの最新型(3世代目)は、どのくらい進化しているのか。EVとして気になる走行距離、充電性能、走りについて詳細に見ていこう。
フル充電で600km以上を走行可能!
新型リーフでは、搭載するリチウムイオンバッテリー容量を「52.9kWh」と「75.1kWh」の2種類から選べる。大きい方のバッテリーを積む新型リーフは「B7」、小さい方は「B5」というグレード名になる。バッテリーの容量に応じて「B」と数字を組み合わせたグレード名とするのはEV「アリア」でも用いている手法だ。アリアでは91kWhを「B9」、66kWhを「B6」と呼ぶ。
新型リーフのB7は一充電走行距離が北米仕様で303マイル、日欧仕様で600km以上。B5の一充電走行距離は現時点で非公表だ。
現行の2代目リーフには、やはりバッテリー容量に2つの選択肢がある。標準は40kWhで一充電走行距離が322km、大容量仕様の「e+」は60kWhで450kmだ。新型リーフはバッテリー容量の増量により、一充電距離で最大1.3倍の走行距離を実現している。
ちなみに北米では、リーフの車格で300マイルを超える距離性能を持つEVは他にないという。
熱管理にEV先駆者としての優位性
EVの関心事は他にもある。充電性能だ。
新型リーフは発生する熱を余すことなく有効活用することで、充電の効率化を図っている。
例えば、車載の普通充電器で充電する際には、発生する熱を使ってリチウムイオンバッテリーを温め、寒冷地でも効率よく充電できるようにした。また、リチウムイオンバッテリーで発生する熱は空調に活用し、暖房での電力消費を抑える。
ナビゲーションと連動した走行中の熱管理も高度だ。ナビで目的地を設定すると、経路の道路状態に応じて、負荷の少ない区間、例えば市街地走行などではリチウムイオンバッテリーを冷やし過ぎないようにする。急速充電でも、充電後に走行負荷の少ない経路を通る場合はバッテリーの許容温度を調整し、充電速度を高める。
こうした熱管理の実現は、初代リーフから累計70万台を世界で販売し、それらの走行距離が合計で280億kmに達したことによる膨大な知見の成果だという。
外部への給電も新型リーフの売りで、コネクターを差し込むだけで電力が供給できる。これまで必要だった「パワームーバー」という外部装置は不要となる。
EVならではの走りの楽しみは?
走行性能では、アリアで使っているEV専用プラットフォームを採用。それによりリアサスペンションもマルチリンク式となり、操縦安定性と乗り心地が進化したそうだ。
駆動系はモーター/減速機/制御用インバーターという3つの機器を一体化して「3in1」(スリー・イン・ワン)とすることにより、小型化と剛性の向上を果たした。これを車載するためのマウントも一体化し、振動を吸収するインシュレーターを大型化することにより、振動や騒音のさらなる低減も実現できたとのこと。
騒音の低減や滑らかな加速を実現するため、永久磁石式同期モーターの回転子(ローター)に永久磁石の位相をずらした配置を採用。これも新たな取り組みだ。
全体として、乗り心地はより上質になり、発進加速や高速道路での追い越し加速、高速走行での伸びやかさは進化し、EVならではの快適な走りや移動を存分に味わえるクルマになった、というのが日産の説明だ。
販売動向を左右する要素は…
新型リーフは従来の実用車的なハッチバックから、より個性的なクロスオーバー車にキャラクターを変えた。それに応じて、走行性能や乗り心地などが大きく進化している。当然、室内の広さや一充電走行距離など実用面の改善もある。
商品性の向上は明らかだが、販売動向を左右するのは価格だろう。リチウムイオンバッテリー容量の増量が車両価格にどんな影響を与えるのかが重要だ。
現行の2代目リーフは標準車(バッテリー容量40kWh)が408.万円から、e+(60kWh)が525.36万円から。売れ筋と思われる「G」グレードは、それぞれ約440万円と約580万円だ。
新型リーフのバッテリー容量は52.9kWhと75.1kWhで共に1.3倍前後増えている。価格上昇がどのくらいで収まるのかに注目したい。EV購入の補助金が適用されるとしても、残価設定ローンやリース販売を含め、手に届く範囲でなければ、エンジン車やハイブリッド車からの誘導が厳しくなるかもしれない。
パーク24が「タイムズクラブ」会員を対象に実施した最新のアンケート調査では、まだ8割以上がEV購入を検討したことがなく、買ったことのない人の49%は「価格が手ごろになったら」EV購入を検討してみたいと答えている。「走行距離への不安がなくなったら」は31%で、購入動機の順位で言えば3番目だ。自動車の購入を検討する人の心を動かし、選択肢にEVを加えてもらうためには、まずは価格設定が重要な要素となる。
いいクルマを作れば売れる市場でないところが、EV販売の難しさである。
とはいえ、3世代目を迎えるEVはリーフのほかにないという。EV先駆者の1台として駆け抜けてきたリーフの新型は、どんな仕上がりなのか。日本仕様の正式発売と試乗の機会が待ち遠しい。