東北大学は、同大大学院工学研究科電子工学専攻の加藤俊顕准教授、同大院生の赤間俊紀氏、同・大北若菜氏、金子俊郎教授らのグループが、原子オーダーの厚みを持つシート材料である遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)を用いて、透明かつフレキシブルな太陽電池の開発に成功したことを発表した。この成果は9月20日、英国科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

この本手法で形成したTMDを用いた透明フレキシブル太陽電池(出所:東北大Webサイト)

透明でフレキシブルな太陽電池が実現すると、現在主流のシリコンを用いた太陽電池では設置が困難な車のフロントガラスやビルの窓、携帯電話ディスプレイの表面、さらには人体の皮膚等あらゆる場所へ太陽電池を設置することが可能となり、大きな技術革新が期待できるが、TMDを使った透明太陽電池を大面積基板に作る技術は開発されておらず、実用化に向けての大きな課題とされている。

そこで研究グループは、TMDを利用した透明フレキシブル太陽電池の開発を目指し、ショットキー型太陽電池に注目した。これは、電極とTMDとの間に自発的に形成されるショットキーと呼ばれる電位構造を利用して発電を行うもので、電極の種類と形状を最適化するだけで発電が実現できるシンプルな構造となっている。

ショットキー型太陽電池を透明なTMDに対して用いた前例がなかったことから、まずはショットキー形成に最適な電極種の選定を行った。同種の金属をTMD両端に配置するデバイスが一般的だが、同研究では、TMDの両端に設置する電極の種類を変えた異種金属電極構造を用いた。この両端電極対の組合せを変化させたところ、両端電極の仕事関数差(ΔWF)が大きくなるにつれ発電効率(PCE)が向上することを見いだした。

次に、電極の間隔とTMDの配置方法を最適化し、電極間隔を短くかつTMDを基板に接触しない架橋型とすることで、発電効率が大幅に向上することが判明し、最高で0.7%(AM1.5G)照射)の発電効率を実現した。研究グループによれば、これは同程度(3層以下)の厚みをもつTMD太陽電池の中では世界最高の発電効率だという。

この手法では、現在半導体デバイス製造プロセスで一般的に用いられているリソグラフィを使って簡単に電極を大面積基板にデザインすることが可能であり、さらにその基板に対してTMDを塗布するだけで太陽電池が形成できる。そこで、シリコン基板にあらかじめパターンニングした電極にTMDを塗布して太陽電池を作製したところ、センチメートルオーダーの基板上でも容易に発電が確認できた。また、シリコン基板上に限らず、透明フレキシブルなポリマー(PEN)基板上においても、同様に太陽電池を作製し発電可能であることを実証した。

また、更なる発電効率の向上を目指し発電機構に関する研究を行った結果、照射光の波長により得られる発電効率が異なることが判明し、TMD特有の励起子とバンド構造の関係に由来することを見出だした。

従来の手法とは異なり、異種電極構造を採用しTMDと電極との接合状態を最適化するだけのシンプルなショットキー型太陽電池を用いることで、透明なTMDを用いた太陽電池では世界最高の0.7%の発電効率を実現するとともに、実用化に向けて重要な大面 積化も可能であることも実証した。透明フレキシブルな大面積基板上での太陽電池の作製が可能であることを実証したことで、TMDを用いた透明フレキシブル太陽電池の実用化に大きな貢献が期待できると説明している。