金星の赤道にジェット気流があった

まだ薄明かりが残る夕暮れの空に輝く「宵(よい)の明星」。ひときわ明るいこの一番星は、太陽の光を反射して見えている金星だ。金星は太陽の周りを回る惑星で、自分では光らない。月と同じだ。

図 赤外線カメラが捉えた金星の雲画像(擬似カラー)。雲が写っているのは金星の夜の領域。暗い色の部分は雲が厚い。左側の白い領域は太陽の光が当たっている昼間。太陽光の反射が強すぎて、雲は見えない。(堀之内さんら研究グループ提供、©PLANET-C Project Team)

金星が月と違うのは、太陽光が何に反射しているのかという点だ。月は、月面が太陽光に照らされて明るく見えている。金星は、高度45~70キロメートルくらいに広がる厚い雲に全体が覆われていて、太陽から来た光の8割をこの雲が反射してしまう。私たちが宵の明星として見ているのは、金星の本体ではなく雲なのだ。

この雲の動きを観測すると、金星大気の流れが分かる。ただし、金星は地球から遠いので、地球上から望遠鏡で観測しても、細かいことは分からない。やはり、至近距離で観測できる探査機が有利だ。北海道大学の堀之内武(ほりのうち たけし)准教授らの研究グループは、金星の赤道に沿って秒速85メートルにもなる西向きのジェット気流が吹いていることを発見し、このほど発表した。宇宙航空研究開発機構の金星探査機「あかつき」が赤外線カメラで撮影した雲の画像を使った。

じつは、金星の上空に猛スピードの風が吹いていることは、1960年ころから知られていた。秒速100メートルにもなる「スーパーローテーション」という大規模な風だ。金星大気のほぼ全体が、東から西に猛スピードで流れている。スーパーローテーションの最強部は高度70キロメートルくらいの上空にある。雲の上面付近の高度だ。ジェット気流は、強い海流のような幅が狭い高速の流れを指すので、スーパーローテーション全体をジェット気流と呼ぶことはない。

堀之内さんらが見つけて「赤道ジェット」と名付けた気流は、これとは違う。2016年7月11~12日の観測では、気流の最速部は北緯5度付近にあり、その北側と南側では急に遅くなっていた。まさにジェット気流だ。3月末の観測では確認できなかったが、7月と8月には、最速部の緯度は南北にすこし動きつつ、ジェット気流は継続していた。高度も違う。雲の中・下層にあたる高度45~60キロメートルのあたりを吹いていた。スーパーローテーションの最強部より低い高度だ。赤道ジェットは、スーパーローテーションによる強風とは形も高度も違う「新種」なのだ。

金星と地球は隣どうしの惑星だし、大きさも、岩石の硬い地面をもっている点もよく似ている。だが、地球の大気にスーパーローテーションはない。赤道付近のジェット気流もない。地球と金星の大気の流れは、なぜこんなにまで違うのか。そんな金星大気の流れをコンピューター・シミュレーションで再現し、その謎を解こうとする研究も進められている。

だが、そのシミュレーション結果の正しさを検証するための実測データが、まだ足りていない。金星大気の現実の姿が、そもそもよく分かっていないのだ。その意味で、堀之内さんらの研究結果は、シミュレーションによる研究に対して新たな「課題」を突きつけたことにもなる。この赤道ジェットも、シミュレーションできちんと再現できるのだろうか。こうした「課題」を手がかりに、金星大気の謎が一歩ずつ解き明かされていくに違いない。

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