国立循環器病研究センター(国循)は、心磁図検査が不整脈原性右室心筋症(ARVC)における致死性不整脈の発症予測に有用であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、国立循環器病研究センターの木村義隆氏、心臓血管内科の不整脈科部長である草野研吾氏と研究所循環動態制御部などで構成される共同研究チームによるもの。詳細は、日本循環器学会の英文医学雑誌「Circulation Journal」(オンライン版)に掲載された。

心臓の磁気を測定する検査で、地球の磁気の影響を受けない専用の部屋(シールドルーム)で横たわった状態で検査・記録をする (出所:国立循環器病研究センターWebサイト)

30秒~1分で検査を終了できるが、金属は磁気に影響を及ぼすためペースメーカやICDなどの植込を行っている場合は検査ができない。心臓の電気的活動の周囲に生じる磁気を読み取る仕組み (出所:国立循環器病研究センターWebサイト)

ARVCは致死性不整脈や突然死を起こしやすい予後不良の疾患。患者の心筋には脂肪変性や繊維化が生じているために、心筋の発する電気信号に異常を生じさせることが分かっている。このため、心室頻拍や心室細動など重篤な不整脈が出現し、死に至ることもある。ARVCによる突然死は植込型除細動器(ICD)の装着により回避可能になるが、ICD植込を検討するための明確な指標はこれまでなかった。

心磁図検査は、心筋症の予後不良因子となる電気信号の異常を検出できる可能性があり、臨床的意義の確立が求められている。研究チームはこれまでの研究から、心磁図検査で拡張型心筋症の予後予測が可能であることを明らかにしてきた。今回の研究では、ARVC患者において、従来の検査法では検出困難な右室の電気的活動の異常を心磁図で見つけ出すことができるか、そしてそれが致死性不整脈の予測に有効であるかを検証した。

具体的に、ARVC患者40例に対し、64チャンネル心磁計(日立ハイテクノロジーズ製)で右室の電気信号を測定し、得られたデータをもとに、日立製作所が開発した電流分布画像化技術を用いて、電気信号の伝播を観察した。その結果、24例(60%)において心臓の電気的活動の終末期に、通常認められない微弱な電気信号が再増強する現象が認められた。

ARVC患者における心磁図検査の結果。心臓の電気的活動の終末期に微弱な電気信号の再増強が認められる場合(上段)は通常の場合(下段)より致死性不整脈を起こしやすい (出所:国立循環器病研究センターWebサイト)

さらに、この微弱な電気信号の再増強のタイミングを測定したところ、より遅いタイミングで再増強を認める症例(12例)では、その後の追跡期間(中央値42.5か月)で致死性不整脈を起こしたのは6例(50%)、再増強なしもしくは再増強のタイミングが比較的早い症例(28例)では致死性不整脈を起こしたのは2例(7%)のみだった。なお、心電図や加算平均心電図など従来の手法では致死性不整脈予測の有効性は証明されなかった。

研究グループは、心臓の電気信号が再増強の有無やタイミングを調べることがARVC患者の致死性不整脈発生予測に有用であると説明している。また、突然死予防を目的としたICD植込が必要な症例を心磁図検査で非侵襲的かつ正確に検討できることから、今後はカテーテルアブレーションによる不整脈治療の効果判定や、他のさまざまな心疾患患者の電気生理学的な病態解明が進むことが期待されるという。