九州大学(九大)は、概日時計を用いた植物の代謝制御の一端を明らかにしたと発表した。

同成果は、九州大学大学院理学研究院の佐竹暁子 准教授と関元秀 特任助教、大原隆之 学振特別研究員と、英国ケンブリッジ大学、ドイツのマックスプランク研究所、ブラジルバイオエタノール科学技術研究所によるもの。詳細は、オンライン科学誌「Scientific Reports」に発表された。

植物は、昼の間に光合成を行い獲得した光合成産物の一部を葉緑体内にデンプン顆粒として蓄え、夜間にはそれを分解して生存・生長に必須の栄養をつくる。蓄えに回す割合が少なすぎると夜間に栄養不足に陥るが、蓄えに回しすぎると昼間のショ糖が不足して成長が妨げられる。また、昼の長さは季節の進行とともに刻々と変化するため変化に合わせて昼間のデンプン蓄積と夜間のデンプン消費を調整が必要となる。しかし、このような効率的かつ柔軟なデンプン代謝を可能にするメカニズムはこれまで未解明のままであった。

今回、研究グループは数理モデリングの手法を用いて、先行研究の断片的な実験結果を統合することで、概日時計と光、そして植物の成長に直接利用されるショ糖に着目したデンプン代謝系モデルを開発した。

植物の概日時計とデンプン代謝系の相互調節モデル (出所:九州大学Webサイト)

ほとんどの生物は概日時計をもっており、この時計を用いて24時間の周期をもった活動を制御している。さらに時計の針は夜明けや日暮れに生物個体や細胞が光の変化を感知したときに進んだり遅れたりして調節されることが知られており、それにより昼の長さの季節変化に対応すると考えられてきた。

しかし、今回のモデルを解析した結果、植物が昼の長さの変化に応じて効率的なデンプン代謝を行うためには、光刺激に加え、光合成で自ら作り出した糖の濃度上昇・低下を感知したときにも時計の針を調節していることが分かった。グループが開発したモデルの予測は、光刺激には反応するが糖刺激に対しては針を動かさない概日時計をもつ、シロイヌナズナの突然変異体を用いた実験で確かめられた。予測通りこの突然変異体は24時間周期のデンプン蓄積・分解活動はするが、昼が長い時にデンプンを過剰に蓄えるという非効率なふるまいを見せた。

昼の間にデンプンをどれだけ蓄えるか、数理モデルの予測と実験の結果 (出所:九州大学Webサイト)

研究グループによると同成果は、環境を制御して作物の効率的生長を目指す植物工場での利用が期待され、また、哺乳類のもつ概日時計も糖刺激に反応することが知られていることから植物に限らず動物への応用可能性も高いものであるという。