日立製作所は、AI(人工知能)技術とウェアラブル技術を活用した組織の幸福感(組織活性度)を計測する技術について実証実験を行った結果、AIによる従業員への働き方アドバイスが、組織活性度の向上に寄与することを確認し、さらに組織活性度の変化量が受注達成率と相関性があることを確認したことを発表した。

スマートフォン画面の表示例(アドバイスと行動ログ)(出所:日立製作所ニュースリリース※PDF)

日本では現在、"働き方改革"が大きな社会課題となっており、労働時間の短縮や労働生産性の向上が求められている。同社では、人や組織の活性度、幸福感と生産性の関係に着目し、人工知能「Hitachi AI Technology/H」(以下、H)と名札型ウエアラブルセンサーの活用による組織活性度を計測・分析する技術を2015年に開発し、既に20社を超える組織にサービスを提供する一方で、さらなる研究と試行を続けてきた。

2016年6月には、名札型ウエアラブルセンサーから収集した行動データを時間帯・会話相手などの項目で細分化し、これをHに入力することで、各個人にカスタマイズされた組織活性度向上に有効なアドバイスをAIにより日々自動的に作成、配信する技術を開発し、2016年6月~10月にかけて、同社グループ内の営業部門26部署、約600人を対象に、実証実験を開始した。

その結果、「出社・退社時刻」「会議の長さや人数」「デスクワークの仕方」について個々に合わせた働き方のアドバイスを提示するアプリケーションを開発し、利用時間が長い部署ほど翌月の組織活性度の増加量が高いことを確認したという。

また、組織活性度の変化量と翌四半期の受注達成率が有意に相関することを確認したという。具体的には、2016年6月~10月に実施した法人営業部門が対象の社内実証において、組織活性度が上昇した部署では、翌四半期(10月~12月)の受注額が目標より平均11%上回った一方、組織活性度が下降した部署では平均16%下回り、両者では27%の業績差が出たということだ。

これまでに同社は、行動が業績に反映されるまでの時間差が短い業種において、組織活性度が組織の生産性と関連することを実証しているが、今回法人営業部門を対象に実証できたことにより、組織活性度が業績予測の先行指標として活用できる可能性を見出したとしている。

さらに今回、社内実証で取得したデータを、同社グループの従業員満足度調査の結果と組み合わせて分析したところ、働きがいのある職場づくりに重要な項目を特定できたという。実証実験に参加した26部署のうち、組織活性度が高い部署では、自身の「意思決定や権限委譲」と「挑戦意欲」に関する項目について、前向きな回答をしていることを確認。さらに、名札型ウエアラブルセンサーで計測した対面コミュニケーション中の双方向の会話比率が高い部署ほど、従業員が「上司からのサポートを実感し、やりがいを持ち、質の高い仕事に取り組んでいる」と回答している。

名札型ウエアラブルセンサーを装着した様子(出所:日立製作所ニュースリリース※PDF)

これらの結果から同社は、営業部門においては、個人の「意思決定や権限委譲」、「挑戦意欲」を重視した人財育成や評価などの制度設計や、双方向コミュニケーションを重視した組織文化づくりが組織活性度を高め、業績向上に有効であると考察している。このように、社内の複数部門で組織活性度と従業員満足度を組み合わせて分析することにより、業績向上に向けた組織設計のヒントを得ることが期待できると説明している。