東京医科歯科大学(TMDU)などは3月24日、遺伝性脊髄小脳変性症のひとつ「SCA31」を引き起こす長いRNAくりかえし配列の神経毒性が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパクであるTDP-43やFUS、hnRNPA2/B1によって緩和されることをつきとめたと発表した。

同成果は、東京医科歯科大学医学部附属病院 長寿・健康人生推進センター 石川欽也教授、国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第四部 永井義隆室長(研究当時、現大阪大学大学院医学系研究科教授)らの研究グループによるもので、3月23日付けの米国「Neuron」に掲載された。

SCA31は、常染色体優性遺伝性で、日本人に特有と言われている脊髄小脳変性症。これまでの研究で、患者にだけ存在するDNAの5塩基くりかえし配列が同疾患の原因であること、またSCA31患者の神経細胞には、5塩基くりかえしがRNAに転写され、RNAが異常な高次構造(RNA foci)を形成していることが明らかになっていた。

SCA31と同じようにRNAの異常な凝集が原因となる神経難病は多数発見されている。その一方で、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などタンパク質の凝集が根本現象となる神経疾患も多く知られている。

今回、同研究グループは、SCA31由来の5塩基くりかえし配列DNAを導入したショウジョウバエを作製。変異RNA expの発現により、進行性の運動障害と複眼変性が生じることを明らかにした。また同ショウジョウバエでは、患者脳と同様に異常なRNAの高次構造体RNA fociが検出され、また変異RNAからは「リピート由来の翻訳タンパク質(PPR)」も発現していた。したがって、RNA fociとPPRの両方が同ショウジョウバエでの病態に関与していると考えられる。

さらに同研究グループは、この変異RNAに結合するタンパク質を同定し、そのなかにALSの原因タンパクであるTDP-43、FUS、hnRNPA2/B1などが含まれることを発見。実際に患者脳で認められるRNA fociにTDP-43が共局在することを確認した。TDP-43は、SCA31のRNAくりかえし配列に結合しRNAの構造変化を引き起こすことが原子間力顕微鏡などの解析の結果から明らかになっている。

また、SCA31ショウジョウバエとTDP-43を発現する別のショウジョウバエを交配したところ、TDP-43の発現によりSCA31ショウジョウバエの複眼変性が修復され、組織中のRNA foci及びPPRの蓄積が減少し細胞毒性が緩和。逆に、変異を有するALSの原因タンパク質(変異TDP-43)を発現するALSモデルショウジョウバエに対しては、SCA31の変異RNAと同じ配列で毒性のない短いRNA 22の発現により変異TDP-43の凝集が抑制され、ALSモデルショウジョウバエの複眼変性が改善したという。

これらの結果から、RNAとRNA結合タンパク質との相互作用によりRNA結合タンパク質がRNAの構造異常を抑制する一方、RNAはRNA結合タンパク質の凝集を抑制するという生体内でのバランス機構の存在が示唆されたといえる。

同研究グループは、今回の成果について、「RNA/タンパク質のバランスの不均衡が、異常RNAの蓄積を認めるSCA31やRNA結合タンパク質の凝集を伴うALSを引き起こす」という新しい病態仮説を提唱するものであるとともに、このバランスの不均衡を是正するというまったく新しい治療手段の可能性であるとコメントしている。

今回の研究の成果の概念図(出所:TMDU Webサイト)