京都大学(京大)は3月15日、安価な樹脂を用いた高通水性の多孔性樹脂「スポンジモノリス」を開発し、抗体の高速分離に成功したと発表した。

京都大学工学研究科 久保拓也准教授、大塚浩二教授、内藤豊裕助教、大学院生の久保田圭氏、ケムコ 谷川哲也代表取締役らの研究グループによるもので、3月14日付けの英国科学「Scientific Reports」に掲載された。

抗体医薬品開発においては、臨床検査段階においても年間100kg以上のターゲット抗体が必要となり、市販化される医薬品の場合にはさらに大量の単離・精製が必要になるため、大量かつ高速での精製技術が求められている。また新薬開発段階では、候補の抗体のスクリーニングのために、多検体の分析が必要となる。

精製、分析のいずれについても、Protein Aを固定化した分離カラムによる免疫グロブリンG(IgG)の分離のように、タンパク質間の特異的な相互作用を利用したアフィニティクロマトグラフィが一般的に用いられている。現在の方法では、Protein Aを固定化したシリカゲルやアガロースの粒状充填剤を分離剤として用いる場合が多いが、現行以上の高い通水性や低コスト化の実現には課題があった。

同研究グループは今回、汎用の比較的安価な合成樹脂を用いて、超高通水性の多孔性樹脂を利用した新規アフィニティクロマトグラフィ用カラムの開発を試みた。具体的には、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(PEGM)基材のスポンジモノリスを液体クロマトグラフィ用のカラムに充填し、Protein A固定化スポンジモノリス(ProA-SpM)を作製。同様にPepsinを固定化したスポンジモノリス型カラム(Pep-SpM)も作製した。

標的タンパク質であるIgGを用いてProA-SpMを評価した結果、グラジエント溶出条件において中性から酸性に移動相を変化させることで、IgGのピークを得ることに成功。また高流速下における評価を行った結果、市販のProtein Aカラム(ProA-Column)では、流速の増加とともにフロースルーピークというカラムに保持されずに溶出する物質のピークが出現するが、ProA-SpMでは流速9.0mL/minにおいても良好な回収率が得られた。さらにPepsinを固定化したカラムにおいては、10 mL/hという比較的高流速の条件においても良好な抗体の消化が確認された。

以上の結果から、これらの新規スポンジ材料はアフィニティ反応の新規プラットフォームとして有効であることが示唆されたといえる。同研究グループは、今回の成果について、バイオ医薬品精製の高速化、簡便化および低コスト化、また新規医薬品開発の迅速化に寄与することが期待されると説明している。

左:Protein A固定化スポンジモノリス(ProA-SpM)を用いたIgGとBSAの分離 右:高流速下におけるProA-SpMおよびProA-Column(市販品)を用いたIgG分離 (出所:京大Webサイト)