奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は3月2日、がん増殖を引き起こすタンパク質Sin1の構造を明らかにしたと発表した。
同成果は、NAISTバイオサイエンス研究科 塩﨑一裕教授、建部恒助教、横浜国立大学大学院工学研究院 児嶋長次郎教授らの研究グループによるもので、3月6日付けの英国科学誌「eLIFE」に掲載される予定。
ヒトのさまざまな臓器での発がんにおいて、AKTと呼ばれるタンパク質の働きが異常なまでに活発になることが細胞がん化の主因のひとつとなっている。このAKTに直接作用し、その働きを活発にする作用を持つTORC2と呼ばれるタンパク質複合体は、AKTの働きを抑制する抗がん剤創薬の標的因子になると期待されているが、TORC2を特異的に阻害する薬剤はいまだ存在していない。
同研究グループは今回、AKTに相当する分裂酵母タンパク質Gad8に結合するタンパク質を探索し、TORC2複合体に含まれるSin1が直接結合することを発見。ヒトSin1とAKTについて検討した結果、両者は直接結合を示すことがわかった。
さらに詳細に解析したところ、分裂酵母、ヒトの両生物種において共に、Sin1タンパク質中のCRIMとよばれる領域がAKTと直接結合することが明らかになったため、CRIM領域のタンパク質立体構造を核磁気共鳴(NMR)分光法により決定。CRIM領域に特徴的な突起が見つかった。同突起を人為的に損なうとSin1とAKTは結合できなくなり、AKTの活性化を抑制できることがわかった。
同研究グループは、今回の成果について、CRIM領域とAKTとの直接結合を特異的に阻害する薬剤の開発によりAKTを抑制する新しいタイプの抗がん剤への道が開かれるものと説明している。