東京大学(東大)は2月8日、2つの回転子のかみ合いを可逆に切り替えることができるギア分子の開発に成功したと発表した。

同成果は、同大大学院理学系研究科の塩谷光彦 教授、同 宇部仁士 助教、同 安田祥宏 大学院生(卒業生)、リガクの佐藤寛泰氏らで構成される研究グループによるもの。詳細は英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

分子機械は、光や熱といった外部からの刺激により、目的に合った一定の制御された動きが可能になる分子群で、2016年のノーベル化学賞に選ばれたことでも知られる。80種類以上の金属元素で形成される金属錯体は、それぞれ固有の構造や物性を持つため、有機分子とは異なる機能を持つ分子機械の構築につながると期待されているが、従来の構築方法は、金属イオンを外部刺激として用いるか、金属イオン上に結合する分子やイオンの数を変化させることで機能を発現させるといった手法が主であった。

今回、研究グループは、有機分子と金属イオンが結合した金属錯体を用いて、ナノオーダーのギア分子を構築し、「金属イオン上での幾何異性化反応」という金属錯体固有の性質を分子機械の運動制御に適用することに挑んだという。

具体的には、プロペラ型の有機分子「トリプチセン」の連結部位の炭素を金属イオンに結合可能なリン原子や窒素原子に置き換えた「アザホスファトリプチセン」という有機回転子を開発。これにより金属イオンとリン原子の間の結合を軸として回転が可能となり、研究では二当量の有機回転子と塩化白金酸塩とを反応させ、白金イオンに有機回転子と塩化物イオンがそれぞれ2つずつ結合した白金錯体ギア分子とした。

同ギア分子は、紫外光を照射すると、2つの回転子が隣り合った「cis体」から回転子が向かい合った「trans体」へと構造が切り替わることを確認したほか、この状態では2つの回転子は互いに離れているため、回転運動のかみ合いが起こらなくなることも確認したという。

さらに、トルエン/ジクロロエタン溶媒中でcis:trans=100:0の状態から紫外光を照射した場合、比率は19:81に、また、溶液を100℃で加熱した場合は78:22となることを確認。光によるオン/オフと、熱によるオン/オフの切り替えを可逆的に行えること、ならびに切り替え操作が再現性よく繰り返し行うことができることも確認したとする。

なお、研究グループでは、今回開発した手法について、薬品を系中に加えることなく制御が可能であるため、モータやブレーキといった、これまでに開発されてきた分子機械と組み合わせることで、より複雑な分子機械の開発も期待できるとしており、分子機械の開発における新たな設計方針の提供につながることが期待されると説明している。

左が今回開発された白金錯体型ギア分子、右が2つの有機回転子を白金イオンに結合させ、回転子がかみ合ったcis体および回転子のかみ合いがないtrans体。回転運動のかみ合いが紫外光と熱により可逆的に切り替わることが確認された (出所:東大 Webサイト)