ケンブリッジ大学の研究チームは、グラフェンを超伝導化する新手法を発見したと発表した。超伝導化することで、二次元の炭素材料である単層グラフェン中に抵抗値ゼロの状態で電流を流せるようになる。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。

単層グラフェンのイメージ(出所:AlexanderAlUS/Wikipedia/CC BY-SA 3.0)

今回の研究では、銅酸化物系の超伝導体であるプラセオジム-セリウム-銅酸化物(PCCO)の上に単層グラフェンを置くことによって、グラフェンにもともと備わっていると考えられる超伝導体としての性質を引き出すことに成功した。

グラフェンと超伝導体を組み合わせることによってグラフェンを超伝導化する研究はこれまでも行われてきたが、発現した超伝導現象がグラフェン固有のものなのか、超伝導体側に由来するものなのかという区別がはっきりしていなかった。

今回の実験では、200nm厚のPCCOの上に単層グラフェンを置いて超伝導化させ、その特性を走査トンネル顕微鏡法やラマン分光法などを用いて評価した。超伝導体では2つの電子がクーパー対と呼ばれるペアになって動くことで超伝導状態が発現することが知られており、PCCOなどの銅酸化物系超伝導体では、クーパー対の電子軌道が「d波」という状態になるという特徴がある。

これに対して、今回の実験で超伝導化したグラフェンで観測された電子軌道は「p波」と呼ばれる別の軌道状態であった。研究チームはこのことから、発現した超伝導状態はPCCOに由来するものではなく、グラフェン固有のものであると結論づけた。PCCOがトリガーとなって、グラフェンにもともと備わっている超伝導体としての性質が引き出されたと考えられる。

今回観測されたグラフェンの超伝導状態は、電子のスピンが「スピン三重項」と呼ばれる状態を取っているという特徴もある。p波スピン三重項の超伝導は、1994年に京都大学の前野悦輝氏らによって、ストロンチウム-ルテニウム酸化物(SRO)で発見されたもので、そのメカニズムはまだ完全には解明されていない。単層グラフェンでp波スピン三重項の超伝導が実現できれば、バルクのSROの観察からは分からなかった超伝導発現の詳細なメカニズムを調べることができるようになる可能性がある。

また、電子工学的観点からは、超伝導化したグラフェンを薄膜トランジスタ状の超伝導回路の材料として利用するほか、グラフェン表面にさまざまな化学分子を結合させた分子エレクトロニクスなどへの応用が期待できるとしている。