マンチェスター大学の研究チームは、これまで知られている中で最も強固な「分子の結び目」を作製することに成功したと報告した。この手法を応用することで、防弾チョッキに使われているケブラー繊維よりも高強度な新規高分子材料などが実現できる可能性がある。研究論文は科学誌「Science」に掲載された。

今回開発された「分子の結び目」は、192個の原子からなる閉じた環(ループ)が8カ所で交差した構造となっている。ループの長さは20nm程度である。

今回開発された分子の結び目の構造(出所:マンチェスター大学)

上の画像は、X線結晶構造解析で得られた結び目の形状を表している。鉄原子(紫)、酸素原子(赤)、窒素原子(青)、炭素原子(灰色)から構成されており、構造の中心には1個の塩化物イオン(緑)が置かれている。水色で表示されている部分が1つの構成単位(ビルディングブロック)となっており、このブロック4個が組み合わさって、らせん構造が三重に形成される。

防弾チョッキの材料として知られるケブラーは剛直な分子鎖が平行に並んだ構造となっている。一方、今回の結び目は、糸を編んだような構造となっており、より軽量で柔軟な高強度材料が実現できる可能性があるという。

分子の結び目は、自己組織化現象によって、金属イオンの周囲で分子鎖が自然に組み上がっていくことで形成される。分子鎖同士が交差する位置も自己組織化で正しく決まる。最後に分子鎖の両端が化学触媒によって結合されて、分子のループが閉じられ、複雑な結び目が完成する。研究チームは今回、この合成を2段階のプロセスで実現することに成功した。

こうした手法を用いて、さまざまな種類の分子の結び目を作れるようになることで、材料の強度や弾力性に対して結び目がどのような影響を及ぼすのかを解明できるようになり、新しい高分子材料の開発につながると期待されている。