順天堂大学はこのほど、同大学院 医療看護学研究科・医学研究科環境医学研究所の岩渕和久教授、中山仁志准教授らの研究グループが、結核菌を含む病原性抗酸菌が免疫から逃れて寄生する仕組みを解明したことを発表した。

ヒト好中球による抗酸菌の取り込みの仕組み

結核は、結核菌によって発生する感染症のひとつ。全世界で昨年だけで960万人が罹患(りかん)し、150万人が死亡した死者数が最も多い感染症でもある。結核菌は「細胞内寄生細菌」と呼ばれ、細胞内で殺菌されることをさまざまな方法で阻害し、細胞内で生存・寄生するという特徴を持っている。

これまで、結核の新薬の開発のため、結核菌が宿主の免疫による攻撃からどのように逃れるのか、その分子メカニズムについて多くの研究が行われてきた。しかし、ヒトにおける結核菌や非結核性抗酸菌の殺菌回避メカニズムの詳細は不明であったという。

そこで今回、病原性抗酸菌によって好中球の貪食(どんしょく)・殺菌機構が破綻するメカニズムを明らかにするため、好中球に発現しているラクトシルセラミド(LacCer)について調べた。LacCerは、ヒト好中球に発現しており、さまざまな菌と結合することが古くから知られている。

研究グループはヒトの好中球が、スフィンゴ糖脂質のLacCerを使って病原性抗酸菌を貪食するかの実験を行った。ヒト好中球の細胞膜上にはLacCerが脂質ラフトを形成している。抗酸菌とLacCerとの結合実験をした結果、LacCerの脂質ラフトは病原性によらず、抗酸菌のLAMに結合することが分かった。

LAMには、病原性抗酸菌が持つManLAM以外に、ホスファチジルイノシトールキャップ型のLAM(PILAM)やキャップ構造のないLAMが存在するという。また、すべての抗酸菌のLAMには、マンノースがα1,6結合でつながった糖鎖の所々に、マンノースがα1,2結合したマンナンコアと呼ばれる糖鎖が存在する。

そこで、α1,2マンノース側鎖を欠失させた非病原性のM. smegmatis の変異株を作成したところ、好中球は変異株を貪食することができなかったという。さらに、変異株由来のLAMだけがLacCerに結合できず、変異株由来のLAMをコートしたビーズも貪食されなかった。

このことは、全ての抗酸菌はLAMのマンナンコアとLacCerの脂質ラフトの結合を介して好中球に貪食され、食胞が形成されることを示している。細菌は、好中球やマクロファージなどの自然免疫を担当する貪食細胞へ取り込まれると、細菌を含む小胞を形成するが、それを「食胞」と呼ぶという。

次に、PILAMをコートしたビーズを好中球に貪食させると、LacCerの脂質ラフトには細胞内シグナル伝達分子が会合して活性化され、食胞に菌を分解する酵素を含むリソソームが融合することがわかった。一方で、ManLAMをコートしたビーズでは会合せず、食胞とリソソームの融合も起こらなかったという。

病原性抗酸菌による細胞内寄生の仕組み

以上の結果から、ヒト好中球はLacCerとLAMのマンナンコアとの結合を介して抗酸菌を貪食すること、および、好中球に取り込まれた病原性抗酸菌はLacCerの脂質ラフト依存的な細胞内シグナルを遮断することがわかった。

研究グループによると、今回の成果を応用することで、新たなアプローチからの多剤耐性結核治療薬や非結核性抗酸菌症治療薬の開発につながるとのこと。貪食・細胞内シグナルを遮断する分子機構をターゲットとした、新規病原性抗酸菌感染症治療薬開発に一歩近づくと期待を寄せている。