AGC旭硝子(旭硝子)は5月26日、東京工業大学の細野秀雄教授らの研究グループが開発した「C12A7エレクトライド」を用いた均一な非晶質薄膜を開発し、量産に必要なスパッタリングターゲット材の工業化と商業生産を開始したと発表した。

C12A7(12CaO・7Al2O3)はアルミナセメントの構成成分のひとつで、内径0.4nm程度のかご状の骨格が面を共有して繋がった構造をしている。C12A7エレクトライドは、このかごに含まれた酸素イオンをすべて電子で交換したもので、金属のように電気をよく流し、電子を外部に極めて与えやすい性質を持ちながらも、化学的・熱的に安定であるため、取り扱いが容易である。細野教授らは、この特徴的な性質を保持したアモルファス非晶質C12A7エレクトライドも作製できることを示している。

C12A7(12CaO・7Al2O3)結晶

現在、有機ELディスプレイの電子注入材料には、フッ化リチウム(LiF)や、アルカリ金属をドーピングされた有機材料が用いられているが、これらは不安定な物質あるいは状態で使われているため、今回、細野教授らと旭硝子の研究グループは、より安定した「非晶質C12A7エレクトライド薄膜」を開発した。

非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、旭硝子の研究グループが開発したターゲット材を用いた室温のスパッタリング工程から得ることができる。同薄膜は、可視域で透明で、容易に電子を放出し、化学的に安定しており、これに細野教授らが開発した透明非晶質酸化半導体(TAOS)を用いたn-チャンネルのTFT素子を組み合わせることで、デバイス構造として有利な逆構造型でも、駆動電圧の低い電子輸送層を高い歩留りで製造することができるようになる。

TAOS-TFTは大型の有機ELパネルの駆動に適しているが、その性能を生かす逆構造の実現に必要な電子注入層と輸送層として、うまく機能する物質がこれまでなかったため、同社は今回の成果により、酸化物TFTで駆動する有機ELパネルの製造が大幅に改善できることが期待できるとしている。

C12A7エレクトライドのスパッタリングターゲット材

従来品との比較